掛川の道の駅にて | 

自動販売機で麦茶を買おうと財布から小銭を取り出すときに指の隙間から100円玉が滑り落ちた。ちゃりんと地面に落ちた音は聞こえたのだけど姿を見失ってしまい、下を向いてきょろきょろしていたら、気がつけば小さな子供を抱えた女性が隣に立っている。なにか言っている。僕は奥田民生が流れる耳のイヤフォンを外した。
「すっごいあっちの方に転がっていきましたよ」
と女性の声が聞こえた。右の、食堂のようなスペースの方を指している。そちらでは、割烹着姿のおばちゃんが、腰をかがめて下を見ながらうろうしている。ああ、多分ぼくの小銭を探してくれてるんだなと思った。
「あ、そうですか」
と僕は女性に言って、そちらに歩いた。5秒後、「ありがとうございましたって言えばよかった」と思ったのだけどもう僕数メートル歩いてしまっていて、機会を逃した。女性はこちらを見ていた。割烹着姿のおばちゃんはすぐそこにいて、他の従業員にも「ころころ〜って、こっちの方に来たんだけどなあ」と説明してくれている。僕を含めて四人で地面を凝視するけど見つからない。一人は棚を動かしてくれた。
「ありがとうございます。見つからないので大丈夫です。」
と僕は三人にお礼を言った。
「五百円とか?」
とひとりのおばちゃんが笑いながら言う。
「いや、百円です」
「百円かあ」
「でも大丈夫です。ありがとうございました」
と言って僕はその場を去った。あの百円が見つかるのはいつになるんだろうかと考えている。もう今頃すでに誰かが見つけて拾っているか、年末の大掃除の時とか、それかこの道の駅が潰れて解体されるときに、業者が見つけるか。

掛川の道の駅にて | 2021 | 未分類 | Comments (0)

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