07080133

体調があまりよくない。昨日はここについてすぐに寝てしまった。いまもすぐにでもベッドに倒れこみたい気分だけど、ちょっと日記を書いておきたい。さっき夕方から昼寝して、起きたら4時間くらい経ってたのにまだ疲れている。時差ぼけの影響だと思いたい。昨日の孤独感の強さに比べたら、いまはだいぶマシになった。

2ヶ月くらい前にスウェーデンでの滞在制作が決まり、6日の朝に東京の家を出て、電車で1時間飛行機で12時間バスで2時間半かけてエーレブルーという町に来た。着いた時はこっちの時間で21時を過ぎていたのに空は明るくて、夜という感じが全くしなかった。

エミルがバス停まで迎えに来てくれて、「さとし?こんにちは。よろしくお願いします」と日本語で話してくれた時、本当にほっとした。飛行機やバスで聞こえてくる人のスウェーデン語の会話が全く意味不明でそれが耳に入るたびに孤独感が増すのを感じて、言葉の壁はここまで高いのかと思っていた。日本語をきかなくなってせいぜい数時間しか経ってないのに、バス停でエミルが発した日本語が、もう久しく聞いていない言語のような気さえした。大げさにも。エミルはこれまで7回くらい日本を訪ねたことがあり、1年間住んでいたこともあったらしい。プロフェッショナルのペインターで、日本でも展示をしたことがあると言ってた。

彼は今日も朝から昼過ぎまでずっとエーレブルーの町を案内してくれた。彼も日本語がそんなに話せる訳ではなく、基本的に英語で話をする。一緒にいる時間が長くなると、聞き取りやすくなることもあるもんだ。エミルによると、スウェーデンでは8歳のころから10年間、テレビのプログラムや他様々なところから英語を学び、ほとんどの人が英語を話せるらしい。世界でも最も英語を話せる割合が高いと言っていた。「日本人は全然英語を話さない。僕の友達が日本に住んでいて苦労している。君の英語は良いよ。」と言ってくれた。でもいま僕はエミル以外の英語が全然聞き取れない。エミルが言ってることも全部聞き取れているわけではないけど、言霊のようなものが伝わってきて意味が理解できることもあるのだと知った。数年前にイタリアに旅行に行った時は、買い物をしたりレストランに入るのも勇気を振り絞っていたけど、今では肝が据わったのか鈍くなったのか、割と気軽に買い物くらいはできそうな気がする。エーレブルーは多分イタリアのヴェローナやロンドンの街よりも白人の割合が高い。歩いてると若干視線を感じる(でもこれもそのうち気にならなくなるだろう。そう願う)。今日は4時間くらい歩いたけど僕以外にアジア系の人は一人も見かけなかった。エミルによると、ストックホルムに行けば中国人やタイ人や韓国人がたくさんいるし日本人も住んでると言ってた。

エーレブルーは徒歩で回れる小さな町(でもスウェーデンで5番目に大きい街らしい)だった。でも一軒一軒の家は大きい。散歩してると、休みの日の上野公園のような感じを街中からうける。僕が滞在しているところは住宅街で、とっても静かで、このへんは静かな通りなんだなーと思ってたけど基本的に街中がこういう感じだった。中央のほうに行くとカフェとかバーとか服屋とかマックとかH&Mとかもあって賑やかだけど、みんなゆったりと歩いていて、知らない人とすぐちかくですれ違うようなこともあまりない。とにかくなんか全体的に「休みの日」という感じ。この空気はどうやって出してるんだ。いまは何割かの人にとっては夏休みの期間でもあるんだろうけど、年中こういう感じなんだろうなという予感もする。道を歩いてる人の服装もみんな控えめでシンプルで、カラッとした空気も相まって、とにかく「休日感」がすごい。路上をみるとタバコの吸殻とか結構落ちてるんだけど、雰囲気がきれいというか、東京みたいにドロドロしてないというか。これはどこから生まれるんだろう。

 

今僕はエーレブルーアートカレッジのワークショップスペースで寝泊まりしている。2階建ての一軒家で、2階部分はワンフロアで30畳以上ある。ここは普段はアートカレッジのデッサン用の部屋らしく、椅子とかイーゼルとかが部屋の隅にいくつかおいてある。今学校は夏休み中で、期間は3ヶ月半あると言ってた。クリスマスにも休暇がある。またアートカレッジの生徒数は30数名しかいなくて、だから「普段は教室として使っている」と言っても実際にどのくらい使われてるのかはわからない。2階にはキッチンもある。キッチンのそばにひとつだけ一畳サイズのテーブルがある。そこに座って、パソコンで日記を書いている。イーゼルとかが置いてある別の隅にはベッドが一つおいてあって、そこで寝ている。1階にはトイレと洗濯機と工房スペースがある。明日からはそこで制作をすることになる。あと1週間くらい休んでから制作を始めたい気持ちだけど、意外と時間がない。この建物の向かいには学校の本校のような建物があって、そこにはいくつかの教室とギャラリーと工房とシャワーがある。ネットもここで使えることがわかった。いまは夜中の1時19分。外はようやく暗くなったけど、まだうっすら明るい。

今朝、エミルと散歩に出かける前に窓から外を見たら日差しがとっても強くて暑そうだと思い、室内で着ていた長袖のシャツを脱ぎすてて出かけたんだけど、外にでた瞬間涼しさにびっくりした。日差しの強さの割に涼しすぎる。風が冷たい。エミルは暑そうにしてるし、街にはTシャツやタンクトップの人がほとんどだけど、僕にはTシャツだとちょっと寒かった。いまの時期スウェーデンは22時過ぎくらいから暗くなり始める。数週間前までは白夜で、ずっと明るかったらしい。

「日本ではスウェーデンはソーシャルケアが充実した良い国だというイメージがある」と言ったらエミルは「その通りだ」と言ってた。こちらでは65歳を過ぎると全員に住む家(老人で集まって住む集合住宅のようなものらしい)が与えられ、政府からお金が支給され仕事はする必要がなくなるらしい。また子供が一人できると、2年間は仕事をしなくてもお金をもらえて一緒にいることができるという。だからスウェーデン人は子供をたくさんつくるという。保育園のようなものはないらしい。人口も基本的に少しずつ増えている。病院も無料でいける。ただし税金が高い。日本でいう消費税は30パーセント以上あり、タバコやお酒にも重い税がかかってる。エミルは喫煙者でラッキーストライクを吸ってるけど、一箱買うのに900円くらいかかる。お酒も普通の店では売ってなくて、ナントカっていうお店にいかないと買えないらしい。ナントカの名前は忘れた。ただしフルーツと野菜が安い。スーパーでびっくりしたけど、ジャガイモが1キロ100円くらいで買える。りんごも。僕は見てないけど、エミルによるとスイカも一玉100円くらいで買えると言ってた。

 

日本では人口減少と少子化と格差の拡大と諸々の影響で暗いムードが漂っていると言ったら、「僕の日本人の友達も日本に住むのがしんどいと言っていた」と言った。

Posted by satoshimurakami