07142209

ここにいるといい意味でなんとでもなれと思える。これは言葉の力がとっても大きいのだと思う。人と話してもうまく伝わらないフラストレーションが常にあって、それが逆に別の方法のコミュニケーションに駆り立ててくれる。言葉以外でコミュニケーションが、いかに多くを伝えるかを思い出させてくれる。僕のこれまでの活動が僕を支えてくれる。僕の過去の制作物や、スケッチや、日々のふるまいが、言葉の「代わり」に僕の思考を人々に伝えてくれる。すべての人間がそれぞれ独自の言葉をもって一緒に住んでいる世界を想像してみる。というか、世界中のあらゆる言語圏から、母国語しか話せない人を一人ずつ連れてきて、みんなが死ぬまで同じ時間をすごしてもらう。そこで流れる時間について想像してみる。逆にいつも以上に相手のことを理解しようとがんばりそう。現実に今生きているすべての人は、生まれることを選んで世界に降りてきたわけではないので、だからみんないきなり連れてこられたようなものだと思うと、同じ言葉を話しているからこそ起こる不幸もありそうだ。

向かいのアパートの1階の部屋と2階の部屋のテレビが同じチャンネルを映している。この二つの部屋が同じチャンネルを映してることを知ってるのは世界で僕だけだ。仮想のアパートのようなものを想像する。人々は一人一人それぞれの部屋をもっていて、部屋と部屋は電話やインターネットやテレビやラジオでつながっている。もちろん、部屋を出て直接他人に会いに行くことはできるけど、自分の部屋がなくなることはない。そんでアパートの向かいにもアパートがある。人々は向かいのアパートに住む人々を見て綺麗だとか、汚いだとか、いろいろなことを思う。でも自分のアパートを向かいの建物からみたときのことは全く想像できない設定とする。自分の隣の部屋も見えない。こうやっておこる不幸もありそうだ。

 

昨日は夜1時くらいまで起きてて、今日は朝10時前くらいにおきて、しばらくごろごろとしていて、11時前にいっちょ起きるかと決心してバスタオルと着替えをもって向かいのアートカレッジの建物までシャワーを浴びにいったら、そこでピーターにあった。ピーターとはメールでやりとりしていたけど、会うのは初めてで、彼は僕が来る前に制作のための材料を用意してくれていた。もう一人背中に鬼とか竜とか日本的なモチーフのタトゥーがでかでかと入った(スウェーデンではタトゥーは結構一般的にみんなやってる)キャップ帽をかぶった男の人がいて、ピーターと話していた。多分彼はここの生徒なのだと思う。グラフィティアートのようなテイストで鉛筆のドローイングをしている人だった。タトゥーのデザインもやるらしい。

そのあとしばらく作業をして、13時過ぎにラーズが来て彼のスタジオに連れて行ってくれた。パートナーのAguirreと一緒に「スウェディッシュサマーランチ」を準備してくれていて、一緒に食べた。日本でいう手巻き寿司みたいに(彼らは「のり」という単語を知っていた)、魚の漬物みたいなやつやトマトやサワークリームのようなものやゆで卵にキャビアをのせたものを、好きに組み合わせて食べたり、ドライブレッドのようなもの(スウェーデン語でなんというか忘れたけど、大きなパサパサしたパンというかクッキーのようなもの)に乗せて食べたり、皮をむかないでも食べられる茹でた小さなジャガイモに乗せて食べたりする。これはスウェーデンではベーシックなスタイルらしい。みんなで食材を持ち寄って、公園や湖畔にでかけて広げて食べるのがみんな好きらしい。

 

彼らは4月に日本に行った時、まちを歩くビジネスマンがみんな同じスーツをきて行進してたことにショックを受けたと言っていた。スウェーデンでは銀行とかをのぞいて、制服のようなものはなく、銀行ではみんなスーツを着てるけど色々なカラーのものをきていると。学校にも制服がないらしい。「自分のことは自分で決めるんだ」とラーズは言う。

あと、飲み会でお酒を他人のコップに注ぐ風習も面白がっていた。「あれは良い」と言ってた。「あれでみんなが同じように酔っ払う。お酒から逃げられない。こっちでは、お酒の席で水しか飲んでない人がいても誰も気にしない」と。ちなみにお酒は18歳からバーとかで飲めて、21歳からお店で買えるようになるらしい。

ランチのあとちょっと作業したけどなんだか疲れを感じて、ベッドでちょっと寝て、また作業を再開して、夜になった。今は21時53分だけど外は日本の18時半くらいの明るさ。めちゃくちゃ静かで、例のカラスみたいな鳥の声とウミネコのような鳥の声と、ヴーという冷蔵庫の音しか聞こえない。時々通りを車が通る音もする。向かいのピザ屋はもう閉まっている。

ちなみに同じチャンネルを映している部屋があるアパートは、ピザ屋とは反対側の「向かい」にある。僕がいる建物の二階には北と南に一つずつ窓がある。どっちの窓も人が通れるくらい大きい。で、どっちの窓の下にも道路がある。向かい合った窓が両方とも道路に面しているっていう環境は結構レアかもしれない。アパート側の窓にはよく鳥がくる。車はめったにこない。ピザ屋側の窓には鳥はこない。

Posted by satoshimurakami