4月10日(20日目)

ついに20日目に突入した。ホテルも教習所も人数が減って閑散としてきた。とは言っても、僕と同じく今日卒業検定の人たちはそれなりに数がいる。雲ひとつない快晴で、気候も最高。

昨日、道路を歩きながら自動車を眺めている時に思ったのだけどよくみたら、周りが全然見えない機械だ。あんなものに乗ってるのか。あんな不完全なものに・・。

卒業検定は、先週と同様3人ひと組で行われる。かつ同じ車を何組かのグループが共有するので、最初のグループが終わったら次の3ないし2人のグループに交代するという流れ。僕は最初のグループではあったけど先週みたいに、その中でも一番最初ではなかった。同じ車にのる人の中に、先週の応急処置教習で一緒だった眼鏡の男の子がいた。彼は「いやあなんか、ダメな気がするんですよね。朝起きた時は、いけるぞ!と思ってたんですけど、なんかどんどん落ちちゃって。あぁおなかいたい。」と言っていた。僕は「おなかもいたくなりますよねえ。こんなところ」と言った。「そうですねえ」と言われた。

彼は仮免検定で一度落ちて延泊し、さらにそれに受かったあと気を抜いてしまって体調を壊してしまい、さらに延泊し、結局これまでに2回延泊しているらしい。順当に行けば5日に卒業の予定だったらしいけど今日は10日で、彼は今日で22日目らしい。先輩だ。「ここの生活には慣れました」と言っていた。緊張する性格なんだろう。受かってほしい。

検定は、途中路上停車から本線に復帰する際、後ろにきた軽自動車がかなりスピードをだしていて、こっちも邪魔にならないように一気に加速したのだけど、その軽自動車が完全に反対車線に入って追い越してきて、ちょっとびっくりするということがあったけど特に大きなミスはなかったと思う。あの軽の運転者は教習車が法定速度ぴったりで走るのに苛立つタイプなんだろう。教官は、昨日補習をやってくれた男の人だった。

最後に

「はい。まあね、三人に共通することなんだけど、もうちょっとテキパキやろうよ、とかそこ半クラッチいるか?とか、細かいことはありますが、それによって安全や危険に影響があるようなことはないと思うので、まあできていたと思いましす。そういうわけで終わりです。」

と言われた。これは期待していいのだろうか?結果はいま(11時17分)から1時間半後にはでるだろう。それまで待機。

 

今、掛川から豊橋に向かう電車のなかでこれを書いている。受かった。ついにやった・・。ついに自動車学校を卒業した。あとは今週の金曜日にでも塩尻の免許センターに行って筆記試験を受けて合格すれば免許がもらえる。合格発表の後「卒業式」と言うものが教室で行われた。教官が

「卒業おめでとうございます。早く帰りたいよね!もうすこし説明することがあります。まず映像を見ていただきます。」

と言ってまず映像を見せられた。あのサイコ野郎が映像の中で立っていた。こちらに向かって語りかけてくる。あのサイコ野郎が

「みなさん、合格おめでとうございます。自動車に乗れれば、行動範囲が一気に広がり、たくさんの楽しい思い出が増えていくはずです。皆さんはどこへいくのでしょうか。楽しみですね。しかし、ハンドルを握る皆さん次第で、悲惨な思い出になってしまいます。これから、この学校の卒業生たちが卒業して一年以内に起こしがちな事故や違反の映像を見ていただきます。」

と言って、「だい・・5位・・は・・」と、やたら音が飛びまくる映像が始まる。

卒業一年以内に違反があると、それがこの自動車学校に報告される仕組みになっているらしい。5位は信号無視(過去8年間で759件)、4位は通行禁止(一方通行無視など。774件)、3位は一時不停止(1067件)、2位はシートベルト違反(1150件)、1位は速度超過(1490件)。ちなみに年間4300人くらいが卒業するらしい。

そしてあのサイコ野郎が続ける「みなさんは、これらの行為が違反であることを知っていますよね?そして、これらの違反をしてしまった方々も、卒業した時は皆さんと同じでした。ではなぜこのような違反をしてしまったのか。みてみましょう」僕はあんたがなんでサイコ野郎になってしまったのかの方に興味がある。

そして、「免許取得一ヶ月」というテロップの後に、教習所内のコースの一時停止のところで男が『あ、止まれだ。停止線で止まらなきゃ。右も、左も、来てないな』と独り言をつぶやいて運転する映像を見せられ、続いて「3ヶ月後」と出て、今度は同じ人が「ここ止まれだけど先が見えないんだよなあ・・。あぶね!行き過ぎちゃったか」と独り言を呟いて運転する映像を見せられ、6ヶ月後は相変わらず独り言は呟いてるけど全く止まらなくなった運転を見せられ、9ヶ月後に自転車と接触する。サイコ野郎が言う

「運転に慣れてくると、止まれで止まらなくても事故にならないと学んでしまいます。そして事故が起こってしまいます。」

こうやってサイコ野郎の映像は終わり

「皆さんが笑顔でいつまでも運転していただけることが、自動車学校一同の願いです」という字幕が流れて、今度は教室で自動車学校のおそらく全教官が揃って「卒業おめでとうございます。わあ~~」と手を振る映像で終わる。

なんというか、入学時のあの異常な厳しさとは打ってかわって、優しい。ヤンキーを教える先生のやりかただ・・。「ヤンキーを教える先生のやり方」について詳しくはないけど、そんな感じがする。

映像の後「卒業証書授与」が突然始まる。教室の一番右前に座っていた「わたなべかいと」君というひとが「成績優秀だったからね」と、明らかに適当な感じで代表で立たされて卒業証書を授与されていた。拍手が起こった。

そのあと、この後の本免許試験についての説明があって、解散となった。「わたなべかいと」氏は、帰り際に4人くらいから「じゃあな、成績優秀者」と言われていた。友達が多いんだろうな。彼は卒業検定で僕と同じ車だったけど良い奴だった。ちなみにあのお腹を痛がっていた彼も受かっていた。よかった。

その後、いつも通りバスには乗らずに歩いて掛川駅まで行って、青春18きっぷを使って電車に乗った。掛川から7時間の旅。帰る直前、あの倉庫をのぞいたら五十嵐さんがバイクの手入れをしていた。

「五十嵐先生。一回落ちたんですけど、今日受かりました。ありがとうございました」

『おお~そうか~。頑張ってください。良い小説書いてください。』

「ありがとうございます。先生もお体お気をつけてください」

『ありがとうございます』

と挨拶できた。五十嵐さんに会えてよかった。この教習所での最良の出会いだった。ありがとうございました。ということで、20日間に及んでしまった免許合宿はこれで終了。魂の墓場みたいな場所だった。よく言えば、多様性にあふれていた。それなりに思い出にはなったけど、もう二度と来たくはない。免許センターに行って試験をうけるという試練がのこってるけどとりあえずお疲れ様でした。

Posted by satoshimurakami