2013年10月10日8時04分

2013年10月10日8時04分

昨日酔っぱらって日記を書くのを怠ってしまったので、いそいで今書く。

ヴェニスビエンナーレに行ってきた。まず、僕の泊まっているホテルの最寄り駅「Mestre」からヴェニス本島の「Santa Lucia」まで電車で行かなくてはいけないので(バスもあるけど高い)そこのチケット売り場で買おうとして英語で話しかけたら、イタリア語で返事をされた。僕もなんとなくのイタリア語で返して無事買ったのだけど、そのとき、とても気分が楽になったような気がした。イタリア語で話しかけても聞き取れないと思って、あんまり使えなかったけど、そんなの気にしないでいいのだ、と思った。英語で話しかけてイタリア語で返すということが自然にできるという環境なのだ。

サンタルチアについて、町を歩きながらまわりをみているとイタリア語が普通だけど、英語も中国語も聞こえてくる。日本語も二、三回耳にした。そういう町なのだ。ここは。

サンタルチアから外に出ると、目の前を大きく横切っている運河「カナルグランデ」と、向かいに丸い屋根の小さな教会のようなものと、きれいな橋と、たくさんのゴンドラや船と、なによりこの地方独特の低い高度から差し込む太陽の光がまちの湿った空気を光らせていて、しばらくみとれてしまった。とても美しい町だと思った。

少し歩いてみると、すぐに路地に入る。たくさんの狭い路地が島内をめちゃくちゃに駆け巡っている。そこをたくさんの観光客、現地の人々が入り乱れて歩いている。建物一つ一つから長い長い歴史を感じる。観光地と住宅街が完全にまじりあっていて、目を上げると洗濯物がたくさん干されている。この洗濯物がまた面白くて、自分の家の窓から向いの建物の壁にロープが張っていて、そこに洗濯物がびっしり並んでいる。ロープは固定されているのではなくて、滑車につけられているので、自分の家の窓からでも遠くの洗濯物をたぐり寄せることができる。この洗濯の仕方も、狭い路地が入組んでいるこの町だからこそ成立している方法だろうと思う。

サンタルチア駅から、ヴェニスビエンナーレの主要2つの会場のうち1つ「アルセナーレ」まで歩いていこうと思ったけど、とにかく路地がめちゃくちゃに走っているので、地図をもっていてもわからない。iPhoneのGPS機能がなかったら絶対に迷っていたと思う。iPhoneをみながら1時間くらい歩き回って、ようやくついた。でもまだ開場前のじかんだったので、しばらくふらふらした。散歩するのにこんなに気持ちのよい町はあんまりないと思う。

アルセナーレの会場は、Massimiliano Gioniというキュレーターが企画した「Il Palazzo Enciclopedico(The Encyclopedic Palace)」という企画展と、いくつかの国のパビリオンがある会場だった。

まずはいってびっくりしたのが、みんな写真を撮りまくっている(観光地で写真を証拠に撮っていくみたいに撮りまくっている人がたくさんいた)し、小学生っぽい年齢のこどもたちのツアーがいくつもあって、「なんのオブジェかわからないごちゃっとした現代美術っぽい彫刻」の前で先生が子供たちにレクチャーしていて、みんな割とおとなしく聞いている。わからないものを「面白い」と思える土壌が出来上がっているのだと思う。うらやましかった。それと、みんな映像や作品をみながらぶつぶつひとりごとを言っていたり、映像の部屋の中で騒いでいた若者のグループもあったりして、なんて話しているのかわからないのがとても歯がゆかった。でも、とても自然に、それこそ路地のひとつに入っていくぐらいの気持ちで、気軽にみんな美術を楽しんでいた。

キュレーションは、タイトル通り、現代美術の軸足は外さないようにしながら、なるべくいろんな表現をいろんな国から集めてきたような展覧会だったと思う。みんなそれぞれに自分の国を背負っているような気がしたし、リアリティを感じるかどうかは別として、みんな完成度が高かった。僕はまだまだだと思った。この「みてほしい。みてもらうためにはどんな手段もいとわない」みたいな姿勢をもっと持たないとだめだ。

「Camille Henrot」「Yuri Ancarani」という作家が印象に残った。ふたつとも映像。ひとつは、「宇宙の起源」をテーマにしたような、ちゃんとリリックがあるラップ調の曲にあわせて、Macのデスクトップ上に映像が次々現れるような作品。なんて歌っているかは分からないけど、動物と人間の関係とか、科学と自然の関係とか。Yuriの方は「Da vinci」という映像で、外科手術に使われる、精密な機械(人の体内にアームを入れて、外で操縦する人間の手と同じ動きを患者の体内で行うようなやつ)のPVみたいなつくりをしていた。体内の映像が青かったのは、たぶん赤だとみるに耐えない人がたくさんいるからだと思う。

あとSteve McQueenの映像とWalter De Mariaのインスタレーションがよかった。

特にウォルターデマリアの作品は、鳥肌が立った。何時間でもいられるような空間だった。金色の太くて長い棒が部屋に対して斜めに何本も等間隔に置かれているだけの作品なのだけど、建物と作品とのあいだにある緊張感というか、張りつめた空気が半端じゃなかった。

アルセナーレだけでもみるのに7時間くらいかかって、会場を出たときには夕方5時半くらいだった。

帰りにサンマルコ広場にたまたま出たのだけど、そこがとても楽しげな雰囲気で、気持ちがよかった。夕方の広場は、たくさんの人(観光客もいるし、犬の散歩をしている人もいる)がそれぞれ好きずきに時間を過ごしていて、居心地がよかった。昔から、こういう広場で人が集まって、いろんな話をして、歴史や文化をつくっていったんだと思う。その環境がうらやましかった。

帰りの電車で、自動券売機で切符をかったら、おつりがでてこなかった80セントくらい。僕は、こういうシステムなのか、、と思って納得してしまった。路線図のようなものもなくて、自分がのった電車がメストレにとまるのか、メストレに着くまでわからなかったけど無事到着した。

帰りに、ホテルのそばのBarでピザを食べようとしたけど、今日もイタリア語で話しかける勇気がでなかった。そのうち話せる日がくるだろう。

Posted by satoshimurakami