0710

近くに立派な神社があるから、そこを描いてくれって言われた。以前にも同じようなことを言われたけど、どうも社寺建築は描く気に なれない。あまり気が進まない。いま家の絵を描いてるのは少し攻撃的な気持ちで描いてるから、それを神社とかにぶつける気になれ ない。あのタッチを他のものに転用するのができそうでできない。人からの依頼で何かするのが苦手なので、描いてくれって言われる と描く気が失せるってのも大きい。
駄菓子屋のおばちゃんに
「寺とか神社を描くのはなんとなく抵抗がある」
って話したら
「わかった」
って、一瞬で何かを理解したような返事をくれた。伝わったのかな。
そのおばちゃんは、僕が自分の家で寝たのを見て
「うちは四畳半の仮設だけど、昨日は自分だけ足のばして寝るのがなんか申し訳ない気がしました」
って言ってて、僕はなぜか嬉しかった。

今日もずっと雨が降っている。台風が西日本から関東地方にかけて猛威をふるってるらしい。雨の日は公園の東屋とかでベンチにすわ りながら絵を描いたりぼーっとしたりするのが好きなんだけどあたりは津波で更地になっていて公園も東屋もない。ここらもかさ上げ して、背の高い防潮堤をつくるらしい。どこも一緒だ。
雨が降ると作業が中止になる現場も多いみたいで社長さんは対応で忙しそう。僕が手伝えることは無さそうなのでずっと絵を描いたり 散歩をしたりしていた。「描いて」と言われていた山田八幡宮という神社を見てきた。とても立派で古い建築物だった。やっぱり描こ うという気になれない。 土曜に八戸に帰る予定の作業員が、急遽雨の影響で今夜か明日の朝くらいに帰ることになるみたい。だから僕も出発が早まりそう。八 戸からここに通ってる人はたくさんいるみたいで「今日の便ならダンプカーだ」って言われたのでダンプカーの到着を待つ。待ってい るあいだ、駄菓子屋のおばちゃんがつくっていた「夢灯籠」って呼ばれる手作りの灯籠作りを手伝う。牛乳パックをカッターで切り抜 いてつくる。何人かで作業していて、今月末には道路に並べるイベントをやりたいらしい。おばちゃんは結構な量の牛乳パックを抱えて いて、カッターの持ち過ぎで指が痛いからと布を巻いて作業していた。僕はそんなおばちゃんにカッターの刃の折り方を教えてあげ た。おばちゃんは
「普段やらないことやってるからねえ」
と言ってた。暇を感じてる美大生がいますぐここに来て手伝えればなあと思った。カッターを使えるってだけでここでひとつの財産に なるんだ。おばちゃんがリンゴを切って持ってきてくれた。そのリンゴはとても黄色っぽくて、酸味が強くて口の中が渋くなった。全 部食べた。
灯籠を1枚作りおわったころにダンプカーが来た。灯籠とダンプカーってなかなか無い組み合わせだ。 家を積もうとしてみたけれど、あまりにダンプが大きくてロープを結べる取っ掛かりも無いので、みんなでウーンどうしようって考えて いたら(床屋ファミリーのみなさんは、人がちょっと困っているのを驚異的感度で察知して助けにきてくれる)社長が
「明日発つハイエースがあるからそれで行こう。そっちのほうがいいべ」
と提案した。結局ダンプは無理だという結論に至り、運転手の兄ちゃんは帰って行った。出発は明日になった。

夜は一昨日の役所の人が送別会をやろうと提案してくれて、社長ともう一人の役所職員と一緒に飲みにいく。最近熊の出没がおおく て、それを捉える猟友会もメンバーが高齢化しているという話を聞いた。ツキノワグマは臆病だから人に会いたくない。だからはちあ ったら、目を外さずにゆっくりと後ずさりするのがいいらしい。でももし子連れだったら襲いかかってくるからもう諦めた方がいいと 言われた。社長は「俺猟友会入ります」って言ってた。 二軒目に行ったバーのマスターが、台風で増水した用水路を見に行った人が転落して亡くなったというニュースを見ながら
「なんでこんな時に用水路見に行くんだって思うけども、それが生活の糧なんだって。だからいつも見に行ってて、たまたま今回流さ れただけなんだって。岩手の人が津波あるのになんで海のちかくに家建てんだって思われてんのと一緒だ。」
「ここらは文化も資源もねえって、みんな嘆いてたんだ。でもいままで台風とか地震でやられたことのない良いとこだったんだ。たっ た一回の津波でこれだ」
と話していた。力のこもった話し方だった。
23時半頃に飲み会は解散。今日も自分の家で寝る。うち泊まるかって何人かの人に聞かれたけれど、なんだかんだ自分の家が落ち着く のだ。特に今日は風もあるから家を守らないといけない。

Posted by satoshimurakami