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昨日留守だった二つのお寺はそもそも無人らしい。無人のお寺ってあるんだ。住職が途絶えてしまったということなのかな。 朝、ここの住職さんからおにぎりとお餞別をいただく。そして
「もしできたら山門を描いてくれないか」
と聞いてきた。かっこいい山門だと思っていたし時間もあるので
「やってみます」
と答えた。船の材料を転用して建てられた山門らしい。お昼頃までかけて描いた。またいくらかお金をもらった。たまにこういう風に予想外 の収入がある。
お昼に、住職さんと小学3年生くらいの男の子と一緒に本堂でそばを食べさせてもらう。お寺には住職さんに他に奥さんと若い夫婦がいたの で、この子供は夫婦の子供かと思ってたけど違った。住職さんは「外孫」だと言っていた。夏休みをつかって1ヶ月間くらい親元を離れてお 寺で生活しているらしい。いいね。そばの他に枝豆も出てきた。山形の家庭はどこに行っても枝豆が出てくる。一人大皿一杯分くらい枝豆を 食べる。ここでもそうだった。
お昼頃出発。ミネラルウォーターのペットボトルに麦茶をつめて、キャップに手書きで「麦」と書いてある物を持たせてくれた。良い「麦」 の字だなと思った。今日はあつみ温泉のあたりを目指す。ここから25キロくらい南西にある温泉街。

今日も道ばたでどこまで行くんですかとか、どこから来たんですかとか、本当によく聞かれるなあと思うし、答えたところでなんなんだって 思ってたけど、考えたら僕も旅人に会った時同じことを聞いていた。答えてくれたからといって「そうですか」「おお~」みたいな反応しか できないことはわかってるのに、ほぼ反射的に聞いてしまうこの質問はなんなんだろう。この反射には、自分の中になんか根深い原因がある 気がする。今は「移動している気がしていない」ということにして自分を保っているけど、ちょっと油断すると、というか、どこかで何かの スイッチが入ると不安に襲われる。「えらい遠くまで来てしまった気がする」ていう漠然とした、輪郭が見えない不安。それは「このさき人 生どうすんだ」っていう不安とセットで襲ってくる。この不安のスイッチが入ってるときと入ってないときで「移動していること」に対する 感じ方が違う。この二つの感じ方。なんなんだろう。

「村上まで行くの?」
と聞いてきたおばさんがいた。
「村上は僕の名字です」
と答えた。

「日本一周ですか?」
と聞いてきた男性もいた。僕は
「日本一周っていうか、日本十周です」 と言った。彼は目を丸くして「え?」って感じで驚いていた。日本十周っていう言葉の、なんかぶっ飛んでる感じは気に入った。

少し暗くなってからあつみ温泉に着いた。あつみの人に
「寝られそうな敷地を探してるんだけど何かありませんか」
って聞いてみたら
「グランドホテルの廃墟があるからそこなら絶対大丈夫だ」
と言われて、ちょっと面白そうだから行ってみた。大きなホテルで、倒産したあと建物がまるごと残っている。もう日も暮れていたのでその 大きな建造物は心霊スポットにしかみえなかった。めちゃめちゃこわい。「ここは嫌だなあ」と思って引き返して歩いてたら、めちゃお洒落 なカフェを見つける。足湯に入りながらお茶ができる。看板に「足湯カフェ」って書いてある。なんかクリエイティブな匂いがしたので、こ このオーナーなら面白がってくれるんじゃないかと思って入ってみた。 「チットモッシェ」というカフェで、方言で「ちょっとおもしろい」って意味らしい。僕は勝手に30代で細身の都会的なオーナーがやって るんだろうなと想像してたら、とても元気なお父さんって感じの人だった。なんとなく築地の魚屋で働いていそうな感じ。そのオーナーを含 め、カフェでは8人くらいの飲み会が開かれていた。酒屋のオーナーとか、ホテルの支配人とか、あつみ温泉の経営者達が集まって酒を酌み 交わしていた。旅行の計画を立てているっぽかった。地域の経営者同士で意識的につながりを保ちながらまちをみんなで支えていこうという ような意志が感じられて、あつみ温泉は昔と比べて寂れてきてはいるらしいけど、今まで通ってきて悲しい気持ちになったいくつもの廃れた 温泉街と違ってなんとなく活気があるなと思ったのは、こういう人たちがいるからなのか。 チットモッシェのオーナーはすごく面白がってくれて
「こういうバカなことやってる奴が大好きなんだ。俺もバカだから」
と言ってくれた。
「警察になんか言われたことあるか?」
と聞かれたので
「もう職質は20回以上あります。通報も2回くらいされました。」
と答えたら
「そうだよなあ。こういう世の中だから。負けんなよ」
と言ってくれた。
「負けないっす」
と答えた。
「俺はここを宣伝するつもりで歓迎するんじゃないからな。あんたを気に入ったからやったんだ。インターネットとかにのせなくていい」
とも言ってた。
夜、チットモッシェの前に家を置いて、家を夜モード(窓閉めたりマット敷いたり)に切り替えてたら、飲み会に参加してたおじさんに
「ここらは治安が悪いから気をつけな!」
と言われる。僕は驚いて
「え、治安わるいんすか?!」
と聞き返した。彼は
「見りゃわかるじゃん」
と言う。その直後、別のおじさんが突然
「おい村上い!刺すぞ!」
と言いよってきた。なんだこのおじさん同士のコンビネーションの良さは。
夜、近くの共同浴場(200円の寄付金制)に入ってたら、お風呂に入ってくるひとがみんな
「ばんわ~」
ってぼそっと挨拶することに気がついた。そしたら中にいる人は
「うい~」
って返事をする。出るときは
「お先でーす」
と挨拶して、中にいる人はまた
「うい~」
と返事をする。僕も出るとき
「、、す~」
くらいの小さな声で挨拶してみたら中にいた人が
「うい~」
っと返してくれたのが、とても嬉しかった。

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Posted by satoshimurakami