2015/6/21 常陸に住んでる美術ファンの人の話

「ファッションの仕事を辞めようって思ったのは、ちょうどその当時、ユニクロとか、ファストファッションが台頭してきて、日本ではインターネットが普及しはじめる直前の頃だった。すでに会社にはMacが導入されてたりして。そんな中、自分で勝手に想像したファッション業界の十年後は
『自称作家がわんさか出てきて、インターネットを使って自分で好きなように作って売る時代。もうファッションの世界はなんだかよくわからないカオスな状況になっちゃうんじゃないかなぁ。』
漠然と思ってた。
その当時、体調崩すほどがんばって仕事してて、土日も疲れて一日中寝てしまうか、マーケットリサーチに費やして。そんな状況で、10年後、もっともっとこの業界は酷いことになってるんじゃないか、そう考えたら、もうこの仕事にこだわる理由ってあるのかな?離れてしまってもいいんじゃないかな?って気持ちが強くなってきて。
で、悩んだ結果
『10年後、さっき言ったみたいな状況になってしまうと思うんだよね。何度考えても。』って友人たちに訥々と語って、ファッションの世界から身を引いた。
結局モノを本気で作りたかったら、いろんな制約の中じゃなくて、自由に作れる時代が来ちゃう。そのとき、すでにこんな大量消費生産のなかで、(今でこそこんなに苦しいのに)作ることも消費することも、どんどん加速して行ったら、きっと、なんとなくつまらなくなるんだろうなぁ。つまらないところにいても仕方ないし、それより、自分が一番やりたい事は何だろう?って考えた。
デザインよりもアートが好き。真っ先に心に浮かんできて。
苦しみながらデザインの仕事をすることよりも、まっさらな気持ちで芸術を観ることのほうが自分のなかで大事な事だって気づいた。
それで、生活も気持ちも安定した状態で、たくさんの作品を観る機会をもっとつくりたい。今までみたいに疲れて土日寝ちゃうとか、そういう仕事との向き合いかたをしたくないって思った。そもそも、クリエィティブな仕事というのは、ものをつくることだけじゃない、ってずっと思っていて。
例えば、工夫してより簡潔に、誰がみてもわかりやすい書類のフォーマットを作ることだって、クリエィティブなことであって。いつもそう思って働いてきたから、どんな職種でもそれなりに楽しんでこなしてきたと思う。本当にいろんな仕事を経験したんだけど。
ファッションの仕事を辞めて10年後、自称作家という人たちは、予想通り増え続けて、インターネットでのショッピングは日常の事になった。当然だけど、どのジャンルもマーケットはある意味良くも悪くも活性化されたと思う。本当に、良くも悪くも。
今でも、あの頃、友だちと話していたことを思い出す。
『アンダーグラウンドなカルチャーも、そのうちきっと全部オーバーグラウンドになっちゃうんだろうね。もうすでにその気配がじわじわきてる。この怖さってなんだろうね。経験してないからよくわからない。でも、もしかしたら、それはものすごくつまらない状況かもしれないね。』
今がつまらない状況かと聞かれたら、やっぱり答えはわからない。
でも、今はっきりと言えるのは、好きなことを大事に続けてこれたことは、自分にとっては良い選択だったな、ということ。鑑賞を通してしか得られないことがある、と確信を持って言える自分になれたこと」

Posted by satoshimurakami