7月1日の日記
15時9分
NITOの展示の搬出作業中、カルピスを買いに自販機に行った帰り、小さな店舗のシャッターにペンキで書かれた「THE WORLD IS YOURS」という汚い文字に、自分でも驚くほど勇気づけられる。そして自販機から徒歩3分の現場に戻り着いたときには、さっき買ったばかりのカルピスをほとんど飲み干している自分にも驚いた。
21時41分
二週間後に友達四人で会う約束があるのに、そのなかの女友達一人とサシで飲んだあとにホテルまで行ってしまい、お互いにシャワーを浴びて、ベッドの上で「やる?」「やらない?」みたいな珍問答を一時間くらい繰り返し、でもお互いにやりたい気持ちがあるのは二人ともわかっているという"キモい"状況で、しかし後で気まずくなってもいやだから「この夜のことは夢ということにしよう」「明日起きたら忘れています」という合意をして結局セックスした、という話を、三人組の大学生らしき男の子たちが露天風呂で、おれのすぐ隣で、それなりに通る声で話している。話を聞いていた残りの二人は「きもい」「きもい」と言いつつ、最後には「羨ましいわあ」と漏らしていた。そのうちの一人は、明日意中の女の子が参加する飲み会があるらしく、二人きりになるにはどうしたらいいか、という会議も始まった。
露天風呂から戻って体を洗い始めたら、隣に太った男が座った。顔や耳を洗う仕草、ボディソープに手を伸ばす挙動、シャワーボタン操作など、すべてのevery single 動作を一般人の1.5倍速くらいでこなしていて、おれはびっくりしてしまった。右耳を洗う指などは目で追うこともできないくらいに速かった。
体の洗い方に関して、人はみなそれぞれガラパゴス諸島みたいなもんである。他の人から注意されたり、なにか正しい洗い方があるわけではない分野なので、人生の長い時間をかけてそれぞれの方法論が確立されていく。結果、銭湯みたいな公共スペースでそれが日の目を浴びた時に他の人が驚いてしまうような独自の進化を遂げる。それはわかってはいるが、しかしここまでのものはなかなか珍しい。男は高速で体を洗い終え、去っていった。おれはこんなことを思った。他人が体を洗う仕草は、同性の友達と温泉に行った際などには見ることができるが、異性のそれはこの先、それがたとえパートナーや夫婦でも、ほとんど見れないまま一生を終えるのではないか。