7月10日

参院選投票の帰り道、街路樹の木陰を珍しく音楽も聞かずに歩いていたら、なぜだか唐突に、むかし付き合っていた人のことが思い出された。ぼくに面と向かって「あなたの活動には興味がない」と言える人だったので、すぐ近くでぼくが展示をしているにもかかわらず、そちらには寄らずに地方の花火大火に行ったことや、小豆島で酒を飲みすぎた彼女をトイレで介抱していて、一緒に飲んでいた人たちが心配して、救急車呼びましょうと話していたので、ぼくはことを大きくしたくないという心理が働いてしまって、大丈夫だと思いますと言ったのだけど、救急車呼んで、大丈夫だったらそれでいいじゃないですか、とりあえず呼びましょうと誰かが説得してくれた。あとで冷静になってからわかったことだが、彼女はかんぺきに急性アルコール中毒になっていた。あぶないところだった。あのとき救急車を呼んでいなかったら一生後悔する事態になっていたかもしれない。生きていけなかったかもしれない。餃子五十個とパエリアとケーキを同時につくったことや、アパートを一緒に探したこと、学校帰りに彼女の家まで歩いた夜道のこと。一度破局の危機があり、ぼくは彼女の実家まで行ったのだが、玄関口で彼女の妹に「もう会わないって言ってるから」と拒まれて家に入れてもらえなかった。けどぼくは「残念ながら、諦めが悪いので」と言って、近くのベンチに座って何時間も粘った。暗くなる頃に入室を許してもらって、どうにか関係をもちなおした。四年ほど付き合って、八年前に別れた。三年前に突然電話をくれた。こっちの美術館で展示やるんでしょ、ポスターみたよ、よかったらうちのバイト先の店にも寄って、と。行くよと約束したが、会えなかった。店のすぐ近くまで行って、ビルの影から店内を覗いて、その後ろ姿らしきものを確認したのだが、そこに突入して話しかける勇気がでなかった。前の道を何往復もしたけど、とうとう中に入ることはできなかった。そのまま連絡もできていない。

Posted by satoshimurakami