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新瀬戸駅近くの新瀬戸ステーションホテルという、昭和のレガシー的ビジネスホテルにいる。今日から二泊。あいちトリエンナーレの仕事。
普段は悪い気分にしかならない電車移動だけど、今日は珍しくいいことがふたつもあった。ひとつめは東京駅の弁当屋の若い店員の客捌き。欲しい弁当の番号を伝えた瞬間から、この店員は一味違うぞ、と思った。たとえば私はパスモで支払ったのだけど、カードを端末にタッチしてピッという音が鳴った瞬間(正確になんと言ったかは忘れてしまったけど)「承りました」的なことを言ってくれた。それも素早く、しかしまったく失礼とは感じない誠実かつ正確な発音で。これまで何百回もパスモで買い物をしてきたけど、「承りました」と言われたのは初めてだ。そのほかにもお弁当をビニール袋に入れるときの、一見大袈裟な、しかしとても魅力的な手の動きは、クラシックなバーのバーテンダーのそれを思い起こさせた。まるで自分を機械だと信じているかのような、これまでに何度も何度も反復してきたであろうことを彷彿とさせるような弁当箱捌きや、「ご一緒に飲み物のご注文はよろしいですか」と尋ねるときの、レジカウンターに貼られたドリンク一覧を指さす動き。ロボットみたいなのに、すごく人間であることを感じさせる。彼はきっと、この仕事を続けるなかで独自の「ダンス」を編み出したのだと思う。他の店員の誰にも似ていなくて、その場を1分間だけ劇場に変えてしまうような、見ていてとても気分のよい客捌き。
もうひとつは、そのお弁当を持って新幹線に乗った時のこと。後ろに座っていたスーツ姿のおじさんを振り返って「席をすこしだけ倒していいですか」とお願いしたらすぐに、それまで若干難しい顔をしていたおじさんがパッと恵比寿様みたいな笑顔になって「どうぞ、どうぞ」と言ってくれたこと。驚いたのはこういうときにぶつけられがちな(そして自分もやってしまいがちな)「席を倒すことを俺が許してやる」的な、いやな言い方ではなくむしろ「ぜひそうしてください」的な、席を倒す側の人間の背中を押すような言い方だったこと。親しい人以外から、こんなに気持ちの良い「どうぞ、どうぞ」を聞いたのは初めてである。

Posted by satoshimurakami