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朝ご飯を家族の皆さんと一緒に頂いたんだけど、そこに茶色くて平べったい見たことない料理が並べ られてた。「薄焼き」って呼んでるオリジナル料理らしく、余ったご飯と卵と牛乳と小麦粉を混ぜて 練って焼いたもの。蜂蜜をつけて食べる。これがうまかった。そしてすごく贅沢な気持ちになった。 家庭で作ってるオリジナル料理はその家庭でしか食べられない。
ご飯のあと中3の長男が近くの銭湯までの地図を描いてくれた。地図を描くのは難しい。描き方とか お店の位置に関しておばあちゃんと言い合いになってた。お母さんは
「出かけるとき、いつもこうやって喧嘩になるの」
と笑っていた。なんか僕も笑ってしまった。
地図って家が動かないから描けるものだ。ヒトが住居を固定しはじめたころ地図も描 かれはじめたんだろうなってイメージできる。大竹伸朗さんがドクメンタで作った移動できる小屋の 作品は、津波で家がまるごと流されてるニュースを見て衝撃を受けたことによって生まれたらしいで すよって21世紀美術館の人が話してくれた。ますます大竹さんに会いにいかなきゃって思った。
何人かの人たちが金沢のことを「二つの川に挟まれた町」って言ってた。富山の人たちが「立山に囲 まれた土地」っていうのと同じように。頭のすみに「自分はいまこういう地形のところに住んでい る」っていう感覚を持ってるのだ。これは僕にとって新鮮だった。
金沢から16キロくらい歩いて、夕方ごろ白山市の下柏野町っていう国道沿いの小さな町に着いた。 お寺を探して国道から町の中に入っていったら道ばたで話し込んでるおばちゃん二人に出会った。
「あら、新聞で見たわよ。家背負って歩いてる人でしょ」
と言われた。もう新聞にでているのか。これは嬉しい。話が伝わりやすい。
「いま敷地を探してるんですけどこのへんにお寺ないですか」
「あるある。二つ。こっちのお寺よりこっちのお寺の方がええわ。おばちゃん親切やわ」
と教えてくれた。僕は「親切なおばちゃん」がいるお寺に向かった。ドラクエみたいだ。チャイムを 押したら本当に親切そうなおばちゃんがでてきた。そのおばちゃんも新聞を見て僕のことを知ってい て、すんなりオッケーしてくれた。裏口にあるトイレも使っていいと言ってくれた。 おばちゃんの他に若い夫婦2人と小さな子供が2人住んでいるお寺で、みんな親切だ。夜は僕の家までお弁当を持ってきてくれた。刺身なども入っている。