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勿来町のおばちゃんから久々に電話がきた。ポカリを薦めてくれるあのおばちゃん。昨日のテレビのニュースで僕を見たらしい。
「元気そうで安心したよ」
と言われた。
お昼頃、外を歩いてたら道ばたで話しこんでるおばあちゃん2人組がいたので
「こんにちはー」
って挨拶したら
「はい。どこの、ぼっちゃん?」
と言われた。やっぱり見ない顔の人がいたらわかるのだな。ここはそのくらいの規模の町だ。そのあと山口君の家の絵を描いていたら、向かいの家から、やっぱりおばちゃんが出てきて話しかけてきた。この町はおばあちゃんがたくさんいる。
「ここに引っ越してきた人?ええ人がきたわあ」
「いや、僕は友達です。向かいに住んでる方ですか?漆器店っていう看板がありますね」
「ああ、友達の方ね。いやあどんな人が引っ越してきたのかよく知らんかったからなあ。漆器はいまはやっとらん。今はもう買う人がおらんでな。ここは空き家だったんでなあ。ああ。ようこそようこそ。隣が空き家だとな、さみしくてなあ」
「そうですよね。いつから空き家だったんですか?」
「ん?ああ、最近やなあ。おばあさんとおじいさんと息子さんと3人で住んどってな。じいさんばあさんが亡くなってな、息子さんひとりでどうしようものうなってな。広い家やし、働きにいくのにも不便やしな。ほんで隣が空き家だとな、さみしくてなあ。ようこそようこそ。楽にな。ここらは田舎やからな。みんないい人や。隣にも若い人住んどるしな。向かいの若い兄ちゃんが物知りでな。わからないことあったらなんでも正確に教えてくれるでな。嫁さんも物知りでな。」
「そうですかー」
「そうやな。向かいの若い夫婦は何でも知っとる。ほんで隣にも若い人おるしな。」
この『向かいの家の若い夫婦はなんでも知っているからなんでも聞くといい』っていうセリフは会話の中に6回くらいでてきた。よっぽど色々教えてもらったんだろうな。そして多分このおばちゃんは、僕がこの家の人の友達ってことを忘れている。多分、僕が引っ越してきた当人だと思って話している。
「そうですか。ありがとうございます」
「うん。ようこそようこそ。楽にな。あの柿の木はおたくの木や。冬柿っていってな。甘いんや。食べてみるとええ。」
そしておばちゃんは帰っていった。
後で山口君に聞いたところ、何度も挨拶してるけどおばあちゃんは忘れてしまうらしい。そして「物知りの若い夫婦」は、全然若くないらしい。おばあちゃんとたくさん話した日だった。