09071514

国立化学博物館の深海展に行ってきた。「もっと深く」というキャッチコピーが印刷された素敵なチラシに惹かれて行ったのだけど、とても良かった、というか感動した。3.11の震源域の海底の断層調査のことが展示されていると聞いたので、目的は深海生物というよりそっちだったのだけど、深海生物に関する展示も良かった。博物館的な、パネルと映像がメインの展示なので、モノを見るというよりも文字を追っていくという作業だったのだけど、普通に読み進みつつ、映像をもみつつ展示を進んでいくと、深海調査への人間のモチベーションを感じて、グッとこみあげてくるものがあった。(博物館はいつからああいうパネル展示のような形態になっていったのか、別の意味で気になるけどそれは置いとく)。

なんと地球の表面積の7割は深海にあたるらしい。表面積の7割が深海っていう言い方はよくわからないけど言いたいことはわかる。

最初にびっくりしたのは深海の発光生物について、そもそも発光に必要な物質をつくるためのセレンテラジンというモノを合成する生き物が深海で見つかっておらず、みんなどうやってセレンテラジンを手に入れてるのか謎だったが、近年カイアシ類と呼ばれる、ミジンコみたいな小さな生物がそれを合成できることがわかり、カイアシ類はオキアミなどと同じく食物連鎖の最も下の方にいる生物なのでそれを食べることによる連鎖のなかでセレンテレラジンが深海生物に広まったと考えられる、というくだり。命は他者でできているということを象徴するような事実だ。「食べる」「食べられる」という関係の境界線が溶ける。それは上下のものじゃなくて、生物全体で命をリレーしている。発行する理由も、ある種のクラゲは敵に襲われそうになった時に発光することによって「敵の敵(でかいサメとか)」を呼び寄せ、その敵を食べてもらうというために発光している可能性が高いとか、ホタルイカなどはカウンターイルミネーション(水面近くにいる自分の影を、海の中にいる敵から発見されないよう、光ることによって月明かりに溶け込む)として発光している。闇ではなく光に溶け込むことで身を守る。しかもそのカウンターイルミネーションを見破る特殊な目をもったデメニギスや、わずかな光を捉えるために巨大化した目を持ち、頭上をずっと伺っているアウルフィッシュという魚もいる。アウルフィッシュのあの切実そうな目。

3.11の地殻変動や断層の調査もすごい、震源近くの北米プレートが太平洋プレートとの境界である日本海溝近くで水平方向に最大50m、上下方向に最大10mも地盤が動いた。それによって発生した亀裂の映像や、JFASTと呼ばれる気の遠くなるようなプロジェクト(直径20センチくらいの細長いドリルパイプをつかって水深7000mまで地盤を堀り、地層を調査し、地震の断層の実物を採取し、地盤が滑ったことによって生まれたはずの摩擦熱を調査する。しかもこの摩擦熱が消える前に掘らないといけない。)も素晴らしかった。会場には大変な苦労の末、見つけられたその実物が展示されていた。それはなんとかタインという、「ファンデーションにも使われる、保湿性に優れた細かい粘土」でできている。あの巨大地震を引き起こした地層が「保湿性に優れている」という事実は、世界が歪むようだ。摩擦係数は約0.1だったらしい。ほかにもDeep NINJAという、海を定期的に浮き沈みして自動的に海洋データを送信するロボット(一人で広い海を浮き沈みしているロボット。ぐっとくる)や、海底の細かい揺れを検知してデータを送信し続ける仕組みなどは、いまこの瞬間もずっと動いている。また現在海の温暖化と酸性化が進んでおり、酸性化が進むと海のある種の生き物は骨阻喪症のような状態になり、それがどれほど生態系に影響を与えるかわかっていない。その他、その他。。

Posted by satoshimurakami