8月14日14時3分

昼を食べに、アトリエを出て駅の方まで行ってみたけど、歩いてる人たちの表情や歩き方から、いまがお盆休みであることがびんびん伝わってきて、こちらにも何かが感染ってきそうだった。帰省中の人ってのは、歩き方でわかるものだ。
目当てのパン屋さんがお盆休みでしまっていたので、スーパーで何か買おうと野菜売り場をうろうろしていると、「198円!」という男の声。ベビーカーを押している女に向かって、人参がたくさん入っている袋を見せている。
女は「そんなにたくさん、いらないよ」と笑ったあとで、「安いの?」と値段を聞いた。男はもう一度「198円!」とさっきと同じ調子で答えた。女はコンマ数秒考えてから、「ラペつくっても食べないよね?」と言った。
この女の機転のきかせかた、男のちょっと馬鹿っぽいかんじ、そして、過去にラペに関して何かイベントがあったんだろうという二人の歴史が想像できて、ぐっときつつも、ぼくはなんとなくぎょっとしてしまった。自分の妻からこの台詞を言われたら、ちょっと傷ついてしまうかもしれないと思った。僕はラペは好きだから、まったくおなじ台詞は言われないと思うけど、なんらかの「好き好んで食べるわけではない料理」の名前のあとに、「つくっても食べないよね?」と言われたら、あまのじゃくなので、「いや、食べるし!」と思ってしまうのと同時に、そのセリフに潜んでいるなんらかの攻撃性を勝手に察知してしまって、ぐさっときてしまうかもしれない。
でもこれを言われた男はまったくもって平気そうにしている。夫婦の日常会話のひとつという感じ。とうぜん女の方も嫌がらせをしたくて言ったわけではないということは、その言い方でわかりすぎるほどにわかる。男は「つくってもたべないよね」という質問には答えずに、「(にんじんが)たくさんとれたんだろうね」と、ちょっと面白いことを言った。

Posted by satoshimurakami