0411

朝、近所のコインランドリーに行き洗濯物を突っ込んだのだけど、入り切らなかったので、一度入れたものをすべて取り出し、2つ離れた大型の洗濯機に移したあと、自分が入れた服の中に見覚えのない袋が混ざっていることを発見。ジッパーを開いて軽く中を見たら、びしょびしょに濡れた千円札がそれなりの枚数入っていた。洗濯を終え部屋に持ち帰って改めて確認したところ3万円ほどあり、交番に持っていくことにした。
夜、アトリエ最寄りの交番はパトロール中で無人だったので少し離れた交番に行って「お金を拾ったんですけど」と言ったら、優しげなお巡りさんが、どこで拾ったのか教えてもらえますかと、大判の地図帳を開いて見せた。コインランドリーの位置を教えると、所有権はどうするか、落とし主が現れた場合、お礼を受け取ることを望むか、といったことを聞かれ、お礼はいらない、落とし主が現れなかったら、欲しいと答えた。
奥からもう一人警官が現れて、金額を数えながら紙幣を白いトレーに移し始めた。最後に、お金がはいっていた袋について、これはどう表記すればいいですかねえ、という議論が、二人のお巡りさんの間で始まった。
「黄色い、布の袋?」
「『ポーチ』でいいんじゃないですか?」
「『ポーチ』か」
「くぅちゃんのポーチ。ああ、『宝くじのキャラクターのポーチ』でいいんじゃないですか?くぅちゃんだと、なんのことだかわからないかも」
「…それか、『クジラのポーチ』でいいんじゃないですか?」
そのポーチは、紫色の薄い不織布でできた袋に入っていた。
「これは、いいですかねえ」
「これはいいですかねえ」
いいですかねえ、とは、(捨てちゃって)いいんですかねえ、という意味で言っているようだったので、それはだめだろうと思ったが、黙っていた。ぼくはなんだか新鮮な、ちょっと楽しい気分になっていた。
「でも、これに入ってたんですよねえ」
「はい」
お巡りさんは、この袋についても記入しておかないと、落とし主が現れてこの袋の特徴を述べたときに、中身と合致しないという可能性に気がついたようだった。
「これは、なんですかねえ」
「紙の袋?」
「紙…?」
「布の袋?」
「…袋でいいんじゃないですか?」
「紫の、袋」
その袋はたしかに、なんとも表現しがたい素材感で、捨ててもいいかと思えなくもない薄さではあった。

Posted by satoshimurakami