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いま福島県いわき市の「勿来温泉 関の湯」という大型浴場のラウンジにいる。まわりには退職したばかりくらいの年齢の夫婦連れや親子連れがご飯を食べたりビールを飲んだりしている。月曜日なので、働きざかりの年代の人たちは見当たらない。5,6人のおばちゃんのグループが2グループあってそれぞれ盛り上がっている。家の前に救急車が止まった話やどっかのサンドイッチが美味しいという話が聞こえる。だいたい2,3人が同時に話しているんだけどそれで会話が成り立ってるんだか成り立ってないんだかわからない感じ豪快なテンポのまま話が続いていく。ブレインストーミングしてるみたいだ。すごいな。そういえば常陸太田のアーティスト二人の家にはテレビがなかった。それが良かった。テレビをつけながら会話をすると、話題が表面をすべる。

隣の隣で座布団を敷いて寝ていた男性がどこかが痛くて動けないらしく、スタッフやら家族やらがばたばたと集まってきた。周りの人たちもちらちらと見て気にしている。そんななかでマックブックをひらいてこれを書いている。

今日常陸太田市里川町から北茨城市の大津港までトラックで家を運んでもらい、少し歩いて福島県に入った。いよいよ福島県。ほんと特別な名前になったな。県境を超えたけどなんてことない。それまでの景色と特に何か変わったところは見当たらない。iPhoneの現在地の表示は「茨城県北茨城市」から「福島県いわき市」になってた。でも目の前には同じように右側に海が、左側に山がある道路が続いてるだけだ。海沿いを歩いてるんだけどトンネルもある。ここらあたりから関東平野じゃなくなり、山と海がとても近い。

「家の絵を描かなきゃ」ってこれまで以上に強く思った。今までは自分の家の置き場が見つかる前に絵を描き始める気にならなかったけど描かずにはいられなくなって、家をおろして家の絵を描き始めた。まだトラックでおろされた場所から5キロくらいしか歩いてない。

勿来町関田西という所で描きはじめたらバイクに乗ったおばちゃんに話しかけられる。このあたりに来ると方言が強くて聞き取れないことがあるな。

おばちゃんに事情を説明したら「とんでもねえ長男だな」と笑いながら、今日僕の家を置く敷地を貸してくれた。

その敷地というのが2011年の地震と津波(床下浸水ですんだらしい)でダメになった家を解体した後の更地らしい。

さらに近くで民宿をやっているおばちゃんの友達のおばちゃんと道ではちあって、そのおばちゃんも面白がって「うちも使っていい」と言ってくれた。

バイクのおばちゃんは

「そしたらわざわざ更地で寝なくたって、この民宿に置かせてもらえばええ」

と言う。でも僕は「あの震災でダメになった家の跡地で寝てみたい」と思ってた。だから民宿には明日置かせてもらうことに。海が見える民宿だった。

民宿のおばちゃんは「明日好きなときにきたらええ」と言ってくれた。

以前あるプロジェクトの期間中に岩手県の大船渡で津波にさらわれた敷地に寝たことがあった。

あのとき、知らない人がたくさん目の前を通り過ぎながら僕を睨みつけてくるというひどい悪夢をみて、もう寝るのやめようと思ったのだった。でも今はなんとなく大丈夫な気がする。

そんでバイクのおばちゃんが、この温泉の無料券をプレゼントしてくれて今に至る。太平洋が一望できる素敵な温泉だった。

 

さっきラウンジで絵を描いていたら、隣に座っていた男性に話しかけられた。その男性はいわき市に住んでいて「~の実家が原発で帰れなくなった。双葉町ってとこなんだけど」という話がさらっとでてきた。「北上するなら郡山を目指した方がいい。6号線は原発で通行止めになってる」とアドバイスをくれた。僕は自分の説明をするのが面倒で、適当に「スケッチ旅行している画家です」という説明をした。

これからおばちゃんの更地においてある家に帰る。あんな小さな軽い家でも、帰る場所があると思うだけでここがすこしホームのように感じられてほっとするのだ。

倒れていた男性のところにとうとう救急隊員がきた。でもちゃんと話はできているみたい。大丈夫かな。

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歩かない時はこういう感じになる

Posted by satoshimurakami