いまファニチャーホリックの事務所にいる。今朝、高速バスで東京から福井に帰ってきた。バスが着いた福井駅から、ファニチャーホリックの最寄りの武生駅まで電車に乗ったのだけど、その電車の中ですっごいよく喋る女性2人組がいて、聞いてて面白かった。話題が切り替わるスピードが凄い。「痴呆はなおるのか」っていうような話をしていたかと思うと、窓の外に柿の木が見えたのをきっかけに一気に柿の話題に切り替わる。

「だからな、痴呆ってのはな…。あ、柿の木か。柿好きなんや」

「ああ、美味しいわあ。」

「奇麗なオレンジ色やもんね。今。」

「美味しいわ。」

「あんまり熟してないのがいい。固めのやつ。それが一番美味しいわ。…べちゃべちゃにしてスプーンで食べんのも、甘みは増すやろうけど。」

「べちゃべちゃのやつな」

 

東京で4日半を過ごしてから福井県に戻ってくると、「近くにあるものよりも遠くにあるものの方が多い」っていう事を発見した。東京ではあらゆるものが自分の近くにあったけど、このへんを歩いてると遠くにあるものの方が多い。家とか山とか人とか。東京はやっぱり異常な密度で人や情報や物が集まっていて、すこし過ごしてみてやっぱりこの落差はおかしいと思った。僕がやってることは間違ってないって確認できた。ただしもっといける。このままじゃ、この密度に埋もれてしまう。もっともっと狂わないとだめだ。自分の中でうごめいているモノともっと深くコミュニケーションしていいのだ。それをこわがってしまう。それも立派なコミュニケーションなのだ。一人で考えながら過ごすってことは、自分以外の全ての他者と一緒に過ごすっていうことなのだ。もっと没頭していい。こわがらなくていい。

今日は歩かなかった。散歩したり絵を描いたりして過ごした。東京で過ごしたことを思い出しながら落書きをしてたら「アイフォンモンスター」っていうキャラクターが生まれた。

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GEZANのライブを観て、この人たちのスピードについていかないとって思えた。誠実な表現は、内容が明るいか暗いかとか無関係に人を元気にするものなんだな。マヒトくんとはいつかちゃんと話してみたい。 今夜福井に戻る。何をやってるのかはさっぱりわからないけど、お前のことは信用しているから見方でいよう。って思えるのは、それはそいつがどんな職業に就い てるのかとか、収入はいくらなのかとか、どんな奴と友達なのかとか、警察に捕まった事がないかとかそんなつまらないオプションで判断するんじゃなくて、そいつの誠実さや人間性の問題なんだな。何をやってるのかさっぱりわからないんだけど、こいつが一生懸命やってるんだからなんかやんなくちゃって思うようにして いかないと、そうやって個性って社会の中でみんなで育てていくもんだから、自分の世界を超えた所で判断していかないとすぐにつまらない世界になっちゃう。本が焼かれる世界になっちゃう。

高速バスで東京に来る予定が、いろいろあって新幹線になった。新幹線は速かった。米原駅を通過する新幹線をホームから見たけど、その場にいたみんながちょっとぎょっとするくらいの速さだった。ホームのみんなが「そんなに速いの?!」って顔してた。

そんな新幹線を使った福井から東京までの3時間半は、歩く移動生活での1日よりも長く感じた。なんでだろう。こんなに長い3時間半は初めて味わったかもしれない。時間が歪んで感じられた。その歪みが、新幹線の窓から外を撮ったときの電柱の傾きに現れてる。アイフォンで窓の外を撮ると、何故か手前にあるものが斜めに歪んで写る。

今日は色んな展示を見てまわったけど、いま思い返すとギャラリーで見た展示の記憶以上に、電車移動してたときに感じた時間の長さが印象に残ってる。なんだろうこれは。あの、電車に乗せられて運ばせられている時のイライラする感じはなんなんだろう。
あと、東京の密度にも改めて驚いた。僕は1日で25キロ歩くこともあるけど、それは東京都文京区湯島から小金井市の東小金井駅まで行ける距離だった。地図上の山手線の輪なんかも狭すぎて、目を疑った。東京駅から新宿駅までは一時間半で歩ける。山手線にのると30分かかる。歩きの一時間半と電車の30分は感じ方が全然違う。

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今日から4日まで東京にいく。帰省する。家はファニチャーホリックさんに預かってもらう。

鯖江市はメガネの全国シェアが90%以上あるらしい。まさかそこまでとは。

長野県でまつしろ現代美術フェスティバルが終わったのがまだ1ヶ月前だなんて。インプットされた量が多すぎてずっと脳がオーバードライブしている感じだ。そしていまという一瞬にピントを合わせる力が少しずつついているような気がする。1日のなかで、ぼーっとしている時間がどんどん削られていく感覚。頭がアップデートされて、時間がどんどん伸びていく。不思議だ。僕は歩きなので、毎日の移動距離は普通の人よりもずっとずっと短いはずなのに、自分の生きるスピードが増している気がする。やっぱり車で動くよりも歩くほうがずっと早く遠くに行けるのだ。歩くってのは土地とのダンスだから。でももっといける。もっと今にフォーカスを絞らないといけない。時間は伸び縮みするから、今っていう瞬間への集中力をもっと高めていけば時間は伸びる。そのぶん考える事ができる。

いまこの生活をして7ヶ月目で、だんだん自分が違う社会に生きているような感覚になってきた。同じ空間にいるんだけど、違う社会を生きている。もっと自覚的にやっていけば、これまで僕がいた場所、いまは奴等のいる場所がどんな場所かよりよく見えてくるような気がする。そしてそれをちゃんと絵にしていきたい。

まるで別の社会のフィールドワークをするかのように、各地の家のスケッチを描きためていきたい。別の社会のフィールドワークをするように描く。これは多分大事なキーワードになる。たぶん今和次郎や南方熊楠のことをもっと知らないといけない。僕がやっていることにはまだまだ不純物が多い。まだまだ甘い。もっと濾過できる。無色透明で無味無臭の猛毒のような。

今日は家を動かす。先日ツイッターで

「越前市を通る事があれば敷地お貸しします!」

っていう連絡をくれたオーダーメイド家具屋さんの「ファニチャーホリック」に行く。

お昼ごろ山口君の家を出発して歩いてたらスーツ姿の男性から

「こんにちは」

と声をかけられた。僕は結構急いでいたので

「こんにちは」

ってだけ返して通り過ぎようとしたら

「この辺りに保育園てあります?」

と言われた。家を背負って歩いてる時に道を聞かれたのは初だ。僕は

「この辺の人じゃないのでわかりません」

と答えた。でも答えた後で「この辺の人じゃないってのは嘘だな。今朝まで2日間このへんに住んでたし」と思った。男性は笑って

「そうですかありがとうございます」

と言って去っていった。

 

夕方頃、越前市のファニチャーホリックに着いた。ここの人も山口さんという人で、河和田の山口君とも知り合いみたい。僕は小学校の同級生だった山口君のことを思い出した。山口さんはもともと香川で会社に勤めていたけど7年ほどで辞めて、家具職人になるため学校に入り直し、今は独立して3年らしい。店舗は持っていなくて、個人やショップからのオーダーで家具を作ってる。昔から越前箪笥という箪笥がこのあたりにあるらしく、そういった古い箪笥の金具だけ再利用したりして、現代向けに作りなおした箪笥等をつくっているらしい。
「昔からあるような桐の箪笥は今はあんまり売れないからねえ」
って言ってた。受注から家具製作まで全部一人でやってる。すごい。

 

「床は冷たいだろうから」と言って、山口さんが工場にあった合板とイスとシンナーの一斗缶と梱包用の毛布を使って簡易ベッドをこしらえてくれた。家具職人だ。

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勿来町のおばちゃんから久々に電話がきた。ポカリを薦めてくれるあのおばちゃん。昨日のテレビのニュースで僕を見たらしい。

「元気そうで安心したよ」

と言われた。

 

お昼頃、外を歩いてたら道ばたで話しこんでるおばあちゃん2人組がいたので

「こんにちはー」

って挨拶したら

「はい。どこの、ぼっちゃん?」

と言われた。やっぱり見ない顔の人がいたらわかるのだな。ここはそのくらいの規模の町だ。そのあと山口君の家の絵を描いていたら、向かいの家から、やっぱりおばちゃんが出てきて話しかけてきた。この町はおばあちゃんがたくさんいる。

「ここに引っ越してきた人?ええ人がきたわあ」

「いや、僕は友達です。向かいに住んでる方ですか?漆器店っていう看板がありますね」

「ああ、友達の方ね。いやあどんな人が引っ越してきたのかよく知らんかったからなあ。漆器はいまはやっとらん。今はもう買う人がおらんでな。ここは空き家だったんでなあ。ああ。ようこそようこそ。隣が空き家だとな、さみしくてなあ」

「そうですよね。いつから空き家だったんですか?」

「ん?ああ、最近やなあ。おばあさんとおじいさんと息子さんと3人で住んどってな。じいさんばあさんが亡くなってな、息子さんひとりでどうしようものうなってな。広い家やし、働きにいくのにも不便やしな。ほんで隣が空き家だとな、さみしくてなあ。ようこそようこそ。楽にな。ここらは田舎やからな。みんないい人や。隣にも若い人住んどるしな。向かいの若い兄ちゃんが物知りでな。わからないことあったらなんでも正確に教えてくれるでな。嫁さんも物知りでな。」

「そうですかー」

「そうやな。向かいの若い夫婦は何でも知っとる。ほんで隣にも若い人おるしな。」

この『向かいの家の若い夫婦はなんでも知っているからなんでも聞くといい』っていうセリフは会話の中に6回くらいでてきた。よっぽど色々教えてもらったんだろうな。そして多分このおばちゃんは、僕がこの家の人の友達ってことを忘れている。多分、僕が引っ越してきた当人だと思って話している。

「そうですか。ありがとうございます」

「うん。ようこそようこそ。楽にな。あの柿の木はおたくの木や。冬柿っていってな。甘いんや。食べてみるとええ。」

そしておばちゃんは帰っていった。

後で山口君に聞いたところ、何度も挨拶してるけどおばあちゃんは忘れてしまうらしい。そして「物知りの若い夫婦」は、全然若くないらしい。おばあちゃんとたくさん話した日だった。

雨が降ってたのでずっと屋内にいた。絵を描いたりしてた。夕方、藤田さん家族と別れて西山公園というところに行って、そこで河和田という地域に住んでる山口君という人と合流する。昨日のものづくり博覧会で出会った人。軽トラに家ごとのせてもらって、河和田に向かった。

 

河和田にはいわゆるIターンで住み着いた若い人たちが10数人いて山口くんもその一員らしい。メンバーの半分くらいは京都精華大学の美術系専攻の卒業生で、それぞれ空き家を借りて仕事をしながらくらしている。結構な山奥の町で、やっぱりたくさん空き家がある。みんな安い家賃でひろい家に住んでる。住み始めたきっかけはそれぞれあるみたいだけど、多くは数年前に豪雨の災害があって、そのボランティアで京都から来た人たちが気に入って住み着いたという感じらしい。たぶん鯖江市がそうやって若い人を招いて、定住を促進するような受け入れ体制をある程度整えようとしているんだと思う。

今夜はたまたまそんなメンバーの会議があるらしいので山口君についていってみた。彼らのモチベーションはどっからくるのか気になる。今回は7人くらい人が集まってた。環境系のNPO法人で働いてる人とか市役所で働いてる人とか、木工の工芸品をつくる会社で働いてる人とか眼鏡職人とか職種は様々だけどみんな20代後半だった。結婚して夫婦でくらしてる人もいれば、この町に昔から住んでるおばあちゃん(ぜんぜん親戚とかではない)となぜか二人で一軒家に暮らしてる人もいた。議題はいくつかあって聞いていてわかったのは、彼らは今は使われなくなった眼鏡工房を改装して、木工や漆器や眼鏡制作の作業が出来る共同のスタジオを「PARK」という名前でオープンすべく準備してることと、そのオープンを皮切りにこの河和田を盛り上げていくためにメディアや行政や大学と手を組んで動こうとしていること。

「永住する覚悟をきめているんですか?」

ってみんなに聞いてみたら

「自分たちで永住したい場所にしていく」

って答えが帰ってきた。そうだよな。なんか瑞々しいエネルギーに溢れてて良い。生まれた場所ではないけど、面白くなりそうなこの町をどうしていきたいかっていう公共のことと、それぞれ個人的にやりたいことを自然に結びつけながら生活してる。すごい。こういう生き方ってもう普通になってるのだな。話を聞いていて、なんとなく仲間のような気持ちになった。僕は僕の仕事がある。それをやればいいのだ。各々が各々やっていれば、各々の仲間に出会うのだ。

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昨日まであんなにいい天気だったのに、今日は朝から雨が降ってる。さっき家のドアの蝶番を交換し た。これで、足を出す窓以外の蝶番は全部1回ずつ交換したことになる。とりあえず東京に着くまで の半年はこの蝶番でいけるはず。6ヶ月半あの家と一緒にくらしていて、色々と改良案が浮かんで る。早く2軒目の家をつくってみたい。より快適に持ち運び、より快適に眠れるようなつくりにした い。 昨日は疲れもあったし「ものづくり博覧会」というイベントにも行ってみたかったので、藤田さんに 家をもう1日置かせて下さいとお願いして鯖江の町内を散策した。ものづくり博覧会は鯖江市内のい ろんなメーカーが集まってブースごとに展示をしていて、ちょっと疲れた。眼鏡のメーカーや、眼鏡 洗浄機のメーカーがいくつかあった。やっぱり眼鏡の町なのだ。坂井市の牧井先生も来ていて、ちょっとだけ一緒に見て回った。制作に数千万円かかったらしい漆塗りの山車が展示してあって、これ使うの勿体ないくらいだなあと思ってたら、やっぱり普段は使わないで保管してあるらしい。それも勿体ないな。
博覧会で知り合った河和田町という町の若い人と意気投合して、明日そこに行く事になった。軽トラ で迎えにきてくれるらしい。ここ数日でどんどん知り合いが増えていく。
お昼に「サバエドッグ」なるものを食べたのだけど、これがおいしかった。ご飯と肉に衣をつけて揚げたものに割り箸がささっていて、ソースで食べる。キャッチコピーが「あるくソースカツ丼」だっ た。「鯖江名物」を名乗っていた。

夜は、福井駅の近くの現代美術のギャラリーで角文平さんという人の展示をやっているということを 知ったので行ってみた。福井駅近くの狭い範囲はお店がたくさんあって、女子大生たちがたくさんい て賑わってるけど、駅からちょっと離れるとすぐにお店がなくなってただの大通りになる。散策ができない。

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このお寺には小さい女の子が二人いて、僕が絵を描いてる最中ずっと境内で遊んでた。どんぐりを拾 ったりかけっこをしたり。妹の子が僕にどんぐりを3つと、傘付きどんぐりを1つと、どんぐりの傘 だけのやつを1つくれた。完全なる無邪気さで
「はい。」
って渡してくるので、僕も笑顔になって受け取っちゃう。とてもいい。純粋すぎて眩しい。木の幹に くっついた蛾のサナギの跡をみて
「これ誰の家や」
って言ったりするかと思えば、前の道路を通る車を指差して
「あれスペーシアカスタムや!」
と言ったりする。最近家の車を買い替えたらしく、そのとき色々な車の名前を覚えたらしい。あと挨 拶がやたら元気。
「こんにちは!こんにちはー!」
って道を通る人とか停まった車とかみんなに叫びまくる。された方も挨拶を返さざるをえない。素晴 らしい。

お昼頃三十八社町のお寺を出発して、鯖江のほうに向かう。6キロくらい歩いたところで商店街っぽ いところに入った。鯖江市というところは眼鏡が有名だって、牧井先生から聞いていたけど、その通 りで店とか道のあちこちに「眼鏡」の文字がある。商店街はなんとなく寂しくなりかけてる感じはあ るけど面白そうなバーとかがたくさん目について住んだら楽しそうな町だなと思った。 歩いてたら自動販売機で飲み物を買おうとしている母娘から
「これは、どういうことですか!?」
と話しかけられて、家を背負って生活してることを軽く説明したら
「気をつけてください!」
と言ってくれた。そんでまた歩きだしてしばらくしたら後ろから
「村上さーん!!」
っていう大きな声が聞こえてふり返ったらさっきの自動販売機の前にいたお母さんだった。ものすご い勢いで走ってきて、息を切らしながら
「いま、ご飯たべてるんですけど一緒にどうですか!」
と言うのでついていった。
さっきの自動販売機の向かいに4階建てくらいのビルがあって、その脇からビルの裏に入っていった ら、折りたたみ式のキャンプ用の屋根の下にテーブルとイスが並べられてて、4人くらい人が座って コーヒーを飲みながら話していた。ビルの他に木造の10畳ぐらいの小屋があって、やたら薪がたく さんあって、薪ストーブとかピザを焼く鉄製の窯とかもある。商店街のど真ん中にあるビルの裏にこ んなどっかの山小屋みたいな世界が広がっているなんて思いもしない。すっごく楽しそう。
このビルのオーナーが藤田さんっていう人で、本人いわく「仕事は印刷屋で本業は遊び人」らしい。 なんでも今日は「穴子のさばき方講座」を藤田さん主催で少人数でやったらしく、その後いろいろ魚 を焼いて食べたりしてたところ、たまたま通りかかった僕を見つけた。 そこでピザ窯で焼いためちゃ美味しいパン(薄く切ったジャガイモとトマトとチーズ等がのっている トースト)と、火で湧かしたお湯で淹れたコーヒーをいただいた。火で湧かしたっていうだけでより 美味しく感じる気がする。藤田さんも
「火で湧かすと違う。柔らかくなる」
って言ってた。火をたいて美味しいコーヒーをのんでるけど、ビルの向こうは車の通りの多い商店街 だ。ここはゆるやかに開かれたプライベートな公共空間なのだ。とても良い場所。なかなかできることじゃない。

そのままそこで泊まらせてもらうことになって晩ご飯まで一緒に食べた。福井では「アコウ」と呼ばれるキジハタの煮付けがとても美味しかった。それが盛られたお皿に魚の絵が描かれていて、良いお 皿だなと思っていたら、藤田さんが
「もともと僕は魚をそんなに食べる人ではなかったんだけど、骨董が好きで昔骨董市に行った時にこ のお皿に一目惚れして、値切って買ったんだ。そしたら、そのころ結婚した知り合いの旦那さんが釣 り好きで、彼から大きなスズキをもらったんだ。僕はさばき方がわからないからYouTubeで見なが ら勉強してさばいて、みんなを呼んでスズキを食べた。それから魚が好きになったんだ。このお皿を 買ってからそういうことが起こるから、大事にしなきゃなって」
と話してくれた。この皿には魚を盛りつけたい。そんな皿なのだ。

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いま10月25日の朝だ。僕はお寺にいる。境内が広いお寺。パソコンが電池切れで、iPhoneをソーラーパネルにつなげながらコンクリートブロックに座ってこれを書いている。景色に朝もやがかかっていて、空は雲が一つもない。鳥の声と、遠くの県道からの車の音がする。時々目の前の道路を、犬の散歩をするおばちゃんやおじちゃんが通る。自転車に乗った高校生も通る。大抵の高校生は携帯をいじりながら自転車を漕いでいる。危ないと思うけど、僕もよくやってた。

昨日はお昼前に牧井先生のところを出発して、「ふくい夢アート」なるものをちょっと見た。見てる時に、会場の前に置いてある僕の家を見て、小さな子供を連れたお母さんが
「これどこでみたんやったっけなあ。これどっかでみたなあ。」
って言いながら僕に話しかけてきた。最近福井県内で、僕の家がうつってる何かの番組が放送されたらしい。聞いてみたら、半年前に東京の花屋の前で取材されたやつが最近放送されたらしい。そんなに遅れるんだな。夢アートは、けっこういろいろな会場でやってた。紙からロボットを作りまくってる高校生の作品がよかった。

そんでまた歩き始めて、3時くらいには「もう歩きたくない」って思って敷地を探し始めた。
でもなかなか見つからなくて、5軒くらいあたったけど2軒には断られて3軒は留守だった。うまくいかないのが続くと敷地交渉への自信がなくなってくる。ツイッターで敷地を探していると呼びかけてみたら、何人かが協力してくれた。でも遠かったりして、やっぱりなるべくこの近所で探そうと思った。
福井市の三十八社町っていう面白い町にある6軒目のお寺でチャイムを鳴らしたら、優しそうなおばちゃんがでてきた。手には細かい野菜とか肉とかがついてる。多分ハンバーグをこねていたのだ。そこでオーケーをもらえた。もう暗くなり始めてた。

そしたら、なんだか僕のことをここ数日追跡しているという金沢の人からメールがきて、夜一緒にラーメンを食べた。その追跡者曰く、放浪癖がひどくて、昔は世界中を旅していたらしい。
「親不知という土地を通った時が危なかった」
って話をしたら、親不知という土地の由来を教えてくれた。かつて道路が整備されてなくて海岸沿いを歩いて通るしかなかったころ。激しい波の合間を縫って渡っていた親子がはぐれてしまって、そのまま親が行方不明になってしまったっていうエピソードからきてるらしい。昔から危ない場所としてしられていて、道路が整備された現在もいまだに危ない場所なのだ。追跡者は
「明日また家を見に来ます」
と言って何処かに帰って行った。
お風呂は近くになくて電車に乗るのも面倒なので入らなかった。昨日はそんな一日。

自分になんども言い聞かせていることだけど、いま僕は制作をしているのであって、発表をしているのではない。僕にはある 展覧会のビジョンがあって、そのために作品を描きためているだけ。今は制作プロセスの最中で、絵かきがアトリエで絵を描いてるのと同じことをやってるつもりなのだ勘違いしてはいけない。
僕の頭は既に未来で待っていて、僕の体はいま過去にいる感じがする。あとはその未来に向かって体を持っていくだけ。絵を描きためていくだけだ。当面の目的は移動生活をベースにしてしまうこと。人々が家賃を払って家で生活しながら仕事をするように、僕は移動をベースにした生活をしながら仕事をするのだ。そして展覧会を何度もひらくこと。そうしないとみんなわからないみたいだ。みんな「いつまでやるの?」って聞いてくる。何度説明してもわからないのだみんな。だからやるしかない。そんでたまにだらだらもする。なにもしないでいられるのが一番幸せだ。本当は何もしないでいたいけど体が勝手に動き始めるからめんどくさい。マヒトくんは「沈黙の次に美しい日々」って歌ってた。フィッシュマンズも「目的は何もしないでいること」って歌ってる。何もしないでいられるのはどれだけ幸せなことか。

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「It’s time to get up!Mr.Murakami.You have only 30 minutes …!!」
っていう大きめの声が聞こえて、ふすまがあけられて一気に起こされた。旦那さんは昨日の夜から全 くテンションが変わってない。朝からすごい。イギリスに長く暮らしていたことがあるらしく、向こ うのB&Bの民宿は、こうやって乱暴に起こされて家を追い出されるらしい。朝ご飯を食べながら も、いろいろと説教を頂く。
「甘えてたら伸びん。歯食いしばっていかんと。」
「あんたがやってることは否定はせんが、ただの手段や。手段に溺れてたらいかん。自分の夢に溺れ んと。もっと夢をみなさい。ビジョンを語りなさい。」
などなど。そんで朝ご飯食べてすぐ加藤家を出発した。今日は、この加藤家を紹介してくれた牧井先 生の家の駐車場に行く。ここから15キロくらい南下したところにある。出発するとき奥さんから棟 方志功の弟子の版画がパッケージになったせんべいをもらった。

今日も職質された。「美術家」とか言っても全然通じない人だった。
「美術家です」
って言ったら
「なるほど、じゃあお仕事とかされてるわけじゃないんですか?どこかに勤めていらっしゃるとか」
「いや、美術家です。自営業。個人事業主です。」
「デザインとかをされてるってことですか?」
「いや、だから美術です。現代美術」
「げんだいびじゅつ…」
みたいになった。反論するのも説明するのもめんどくさい。たいていの警官は職質のとき、なんか親近感を得させるためかなんだか知らんけど、僕の活動の説明をさせたり、世間話をふっかけてきたり する。東京で職質されたとき
「ここは美術館じゃないんで。」
とか言ってきた警官がいたのを思い出した。笑えてくるな。なんなんだこの現象は。

たぶんイライラしながら歩いてるのがまわりに伝わったのか、今日は話しかけて来る人がいなかった。ただ夕方に一組だけ土方っぽい雰囲気の男性2人が
「ほんわかテレビみたで!」
って話しかけてきた。
「今日はどこ泊まるん?」
「この近くで駐車場を貸してくれるっていう人がいて」
「あ、今日はもう決まっとるんや。」
そうだ彼はテレビをみているので、僕が敷地を探していることを知っているのだ。それが面白い。こ ういうことをおこせるのはテレビの力だな。そういえば今度宇川直宏さんがDOMMUNEで「THE 100 JAPANESE TV CREATORS」っていう企画をやるらしい。これは企画名を見ただけで鳥肌立 つ。インターネットの番組が、テレビ番組のクリエーターを扱うってのはすごい。テレビっていうメ ディアが一気に相対化される。宇川さんは偉いな。

夕方、小便の我慢が限界に近い頃に牧井先生の家に着いた。しかし牧井先生はまだ仕事で家に帰っていない。とにかくトイレを探そうと思って家を駐車場に置いて歩き出したらすぐに大きな芝生の公園
を見つけた。大きな公園にはたいていトイレがあるのだ。助かった。嬉しすぎた。なかば駆け足でトイレらしき建物に向かっていったら小さな女の子がお母さんと一緒に「だるまさんがころんだ」をやってた。本当に素直に
「だーるーまーさーんーがーころんだ!」
と言ってやってた。これをやってる子供をとても久しぶりに見た気がして無性に嬉しくなった。

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