さだまさしをよく聞いている。主人公って歌が良い。毎日家賃と食費と光熱費と保険料と税金と年金払うために就職して結婚して子供作って、仕事クビにならないようにして仕事休まないように 風邪ひかないようにしなくちゃってやってたら、自分が主人公だって忘れちゃいそうだ。フリーターのときは忘れちゃいそうだった。だからブコウスキーを読んだんだ。日雇い労働者でも主人 公だったんだな、ブコウスキーは。ウディ•ガスリーもそうだな。そんでニーチェは「自分を笑え」って教えてくれたんだった。
釡石の友達のところにお昼まで居た。疲れを取るためには二度寝が効果的だってことがよくわかった。そんで大槌まで送ってもらって、北上を再開する。
安くておいしいカレー屋があるってきいたのでそこでお昼ご飯を食べて出発しようとしたら、大きなリュックを背負った男の人に話しかけられた。その人は完全に旅人の身なりをしていた。徒歩で歩いているらしく、八戸から南下してるという。
「僕も八戸までは行こうと思ってるんです」
って話をしたら
「大丈夫?情報持ってる?」
といわれた。明らかに旅人という身なりの人から発せられたこの「情報」という言葉から切実なものを感じた。多分「テントをはれる場所」「シャワーを浴びられる場所」といった含みがあるんだろう。
「持ってないです」
って言ったら
「このさき、船越というところに家族旅行村っていうキャンプ場がある。自分は昨日そこでテントを張って、200円でシャワー浴びた」
と教えてくれた。キャンプ場はいままでいったことない。せっかくだから今日はそこに行ってみることにした。その人は別れ際に
「がんばりましょう」
って言ってくれた。この言葉は嬉しい。「がんばって」よりも「がんばろう」の方が元気をもらえる。
そのキャンプ場まで13キロくらい。昨日までと同じようにトンネルがあって歩道が無い山道を歩く。岩手県はトンネルが多い。しばらくびくびくと歩いてたけど、あまりに車の音が大きくてこ わいから、逆に段々と「なんでこんなびくびくしないといけないんだ」っていう怒りに変わってくる。腹が立つ。歩行者がこんなこわい思いしないといけないなんて不公平だ。しかも今日は濃い 霧がかかってて、なんとなく何か起こりそうな感じ。
キャンプ場に着いて、八戸から下ってる旅人に紹介してもらった説明をしたら 「まあ嬉しい」
という感じになって、僕の活動に関しても
「えらいわ~」
という感じになって、なんかよい感じのまま
「みんなの談話室になってる小屋があるからそこ使っていいぞ」
っていう感じに落ち着いた。 僕の他にバイク乗りのおじちゃんが2組テントを張ってた。
このキャンプ場は山の上にあるんだけど、海までおりていくとここらも津波でごっそりと何も無くなっている。一面の荒野という感じ。海をみると景色が素晴らしくて、海水浴場としてすごく賑 わってた場所だったんだろうけど、いまは本当に海と陸しかない。景色が良すぎるのが逆に寂しい。近くをふらふらと歩いてたら、パトカーが近くに停まって
「村上さーん!」
と声をかけてきた。いま家を持ってないのにな。なんでわかったんだ。
「なんでわかったんですか?」
って聞いたら
「勘です」
と答えた。
「国道沿いを、けったいなもん持って歩いてる人がいる」 という匿名の通報があったらしい。それでお巡りさん達は「キャンプ場に行ったんじゃないか」と推理してここまできたらしい。すごい。もはや職質は日常のことになってるので、いつも通り身 分証明書を見せて自分の活動の説明をした。お巡りさんの一人がすこし申し訳なさそうに質問してくるので、なんかこっちまで申し訳ない気持ちになる。
「失礼な話なんですが、この先行く土地で泥棒なんかがあったときのために、靴底の型をとらせてもらってもよろしいでしょうか」
「私も(芸術家とか)そういう仕事につきたかった。こんな人を疑ってばかりじゃなくて(苦笑)」
おまわりさんにも葛藤があるんだろうな。大変だ。がんばってください。
その警官は、別の警官が
「芸術家ならサインもらっとくか」
なんて言って、適当な大学ノートを僕に渡そうとしたのを
「いやいや失礼でしょ」
といって止めてくれた。誠実な人だな。