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秋田県には東京の蒸し暑さはない。日中日差しが強くて暑いことはあるけど、朝晩は冷え込むくらいになる。夏は北に来て正解だった。
お昼ごろに加藤さんの家を出て、今度は井川町というところにむかう。ここから20キロくらい南下
したところにある。数日前に知らない人から
「よかったら泊まっていっててください」
というメールが突然来た。僕のことを新聞で知ったらしい。そこに向かう。
夕方、ちりとりの角を使って家の前の道路にこびりついたゴミを掃除しているおじさんのそばを通り
過ぎたあたりから井川町に入った。「日本を、取り戻す」と書かれた自民党のポスターを見つけた。
メールをくれた人と合流して、一軒家に案内された。その人の姉夫婦が住んでいた家らしいけど、二 人とも亡くなってしまって今は空き家になっているらしい。
「ここ自由に使っていいよ」
と言われた。鍵も渡してくれた。こんな事初めて。話を聞いてみると、これまで旅人を何人か泊めた ことがあるらしい。勤め先が国道沿いなので、よく旅人が通りかかる。それに声をかけたりするとい う。で、その度に仲間を集めて宴会をするという。
僕も夜は宴会に呼んでもらった。6人くらいい る。奥さんの地元で暮らすために長崎から移住してきたという人がいて
「こっちの人の言葉、何言ってるかわかんねえべ」
と言ってた。その人と僕以外はみんな「こっちの人」だ。「何言ってるか、わかんねえよな~」って 笑っているとき、なんか泣きそうになる瞬間があった。こういう違いを笑い合えるのって素敵だな。

しかし昨日の加藤さんといい今日の人といい、本当に色んなひとがいるなと思う。もし僕が歩いてな ければ出会う事はなかった。最近つくづく思うけど、毎日発見がたくさんある。あぶないあぶない、 と思う。歩かないと気がつかないことは本当にたくさんある。この生活にこんな側面があったなんて 想像できなかった。この歩きをベースにした生活にこれだけ発見があるなんて。ほんとどうかして た。狂っていた。僕は「~から~まで」行くっていう脳みそになっちゃってい る。
彼女とデートするにしても、遊びに行くにしてもまず「どこにいくか」を考えてしまって、「そ こまで行く」ことが大事だと無自覚に思っていた。その道の途中にこそ、それまで知らなかった事、 面白い事があることを考えもしなかった。 もっと言うと、そうやって行った先で「写真を撮る」ことが大事だと思い込んでいる。素早く目的地 までたどり着くために飛ばした時間と空間の中にもたくさんのまちや人がいることを考えもしない。
バイパスをたくさん歩いてきた。バイパスでは車がたくさん通り過ぎて行った。その名の通り 「パス」していった。僕はそのバイパスの路上にコスモスが生えている事を知っている。アリの巣が ある事を知っているし、人知れず車に轢かれた蛇の死体があることを知っている。車が時速70キロ で通り過ぎて行った土地を、僕は時速4キロで歩いていったから、それらを知っている。1日何千台 もの車に抜かされるけど、そのたびに思う「僕の方がずっと遠くに行ける」って。

歩かないと気がつかないまちがある。知らないまま通り過ぎる無数のま ちがある。あたりまえだけど、知らなかった。僕はいま井川町というところにある空き家にとめさせ てもらっている。持ち主が亡くなった空き家。ここにも物語があった。昨日までそんな名前の町があ ることすら知らなかった。それがいまはどうだ。壁と天井を持った大きな空間が目の前にある。現実 に目の前にある。これがどれだけ大発見かは体験してみないと絶対にわからない。

これまでいくつか「観光地」をみてきた。ほとんどは、空き家とつぶれたホテルとシャッターのしま った商店でできていた。かなしい景色だった。大きな灰色の悲しみがまちの上に浮かんでる気がし た。「昔は賑わったんだよ」って話をきくと泣きそうになった。もう見たくない。通り過ぎた土地にもたくさん町があることに想像を働かせないで目的地まで行ってしまうことは、ひとつの暴力だと思った。僕はこれまで無自覚にそういう暴力を働いていた。あぶないあぶない。

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海水浴場で大きな砂像を作って展示する「サンドクラフト」というイベントがあるらしい。朝、ここの職員さんが連れて行ってくれた。トマトを6個くれた人。 海についたらまずでかい風車が目についた。小学校の工作で作るようなモノをそのまま大きくしたかたち。大きなハネがゆっくりまわってる。かっこいい。 サンドクラフトは、ふなっしーとかドラえもんとか風の神様とかそういうモチーフが多いなか、地元の建設組合が「建設機械」というタイトルでブルドーザーを作ってたのが 良かった。ちゃんとKOMATSUというロゴも入ってる。ぐっときた。
お昼頃「ゆうぱる」を出て、加藤さんという人の家に向かう。昨日の夜ここのオーナーさんが
「この近くにも芸術家がいる。明日はそこに行ってみるといいですよ」
といって、僕のことをその人に紹介してくれている。ここから2キロくらい離れたところに住んでいるらしい。
遊園地みたいな家だった。敷地の中に家と、あずま屋が1つと、犬小屋が1つと、小屋が二つ建ってる。 二つの小屋はそれぞれステンドグラス工房と、そば打ち工房になってる。 またこのあたりは温泉が通っていて、月5000円で使い放題らしい。プライベートの露天風呂があった。 加藤さん本人もすごい人。
「退職後に遊びではじめたんだ」
って言ってるけど、つくるものの完成度がとっても高い。ステンドグラスとそば打ちと木彫とハンコと俳句と果実酒(61種類もある)作りと書をやってる。昔盆栽もやって たらしい。
集中力は何時間も続くわけじゃないから、例えばステンドグラスに飽きたら木彫をやるっていうふうに一日を過ごしているらしい。
「退屈することがねえ」
って言ってた。これも生きる力だ。
毎週新聞に投稿する俳句が選ばれてるか見るのを楽しみにしていて
「明日の新聞にも俳句載ってたらいいなあ」
と言ってた。
「そんな何回ものるわけないの。ねえ?」
と奥さん。良いな。

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