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2ミリほどの赤と黒の虫。髪の毛よりも細い一本一本の足は体の倍くらいの長さ。綿のシャツの繊維に左のいちばんうしろの足を取られて身動きができないらしい。そこから動けない。本の2ページほどを重ねて、虫の体の服の間に入れて、取られた足以外の五本を紙の上に乗せ、踏ん張る足場を用意する。虫との共同作業だ。いま、共同作業をしているということが、よくわかった。彼も紙の上で踏ん張り、僕はその紙が動かないように注意して掴んでいる。そして、足は服の繊維からではなく、虫の胴体から取れた。虫には、ぷち、と言う音が聞こえてそうだが、僕には聞こえなかった。足が5本になった虫は、本のページの上を、ごく普通に。最初から足は5本ですよと言わんばかりに歩いている。僕は紙を少し折り、紙を、僕が座っている木のベンチの脚に当て、本からそちらへ移動するように誘導する。虫はそのとおりに動いてくれた。僕の服の胸のところには、それがそこにあると思ってみなければ見落としてしまうような、細くて小さな黒い彼の左足が残っている。

10031124 | 2021 | 未分類 | Comments (0)

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