12月10日
東京から浜松へ向かう途中、晩御飯を食べに寄ったサービスエリアに水筒を忘れたことに気がついて、20分ほど走ってしまっていた高速道路を途中で降りて下道でサービスエリアまで戻り、男子トイレの小便器の棚に置かれっぱなしになっていた水筒を無事に回収して高速に乗りなおした影響により、ちまたパークに到着したのが深夜の1時。テラダアートアワードの副賞として使わせてもらっていた寺田倉庫の無料期限が今月末で切れるので預けてあった荷物を詰め込んだファントムの車内はパンパンで、エアマットを取り出すのが非常に面倒ということもあって「かじまちの湯」に泊まることにした。カプセルルームがひとつ利用できて8時間3000円というプランがあり、明日は10時半から「しえん会議」にゲスト出演することを考えるとドンピシャに好都合である。コインランドリーと乾燥機が利用できることも確認して、風呂に入って寝た。
12月11日
「しえん会議」おもしろかった。企画者のササキユーイチさんが掲げたテーマは「抵抗の拠点としての家/生活」。ササキさんによる企画趣旨や注意事項説明(発言のパスも可というルールの共有など)のあと、ひとりずつ順番に自己紹介をしつつ、テーマを聞いて思い出したことや考えたことをぽつりぽつりと話していく。遠くから響いてくる解体工事の音に干渉されつつも、みんなそれを無視して負けじと話しているのがよかった。出てきたキーワードをざっと書き出してみる。「家は雨と風と視線を遮るための場所」「バスターミナルに住んでる人がいるおかげで、そこが自由になる。路上に住むことで抵抗してる感じがする」「戻れる場所」「充電する場所」「最近一人暮らしが楽しい」「シェルター」「シェアハウスは自分と他人との折り合い」「車中泊をよくしているので水場を探すのが癖になっている」「家は落ち着かない。家の外と中が分かれているのが落ち着かず、鍵を締められない」「重度障害者と暮らすなかでの、近所とのトラブル」「家族のための家と自分の家は違うのかも」「家が処分できない」「アルツハイマーの母に5回も6回も起こされる」「安全な場所であることが最優先」「父は、屋根があればいい、と言っていた」「結婚して借りた家に帰れなかった。3年ぐらい、私の家という認識ができなかった。家に住んでる感じがしなかった」「一人暮らしのやり方がわからないまま一人暮らしを始めた」。なかでも印象的だったのは「結婚してから50年間、家に嫁いできた者として生活してきた母が、父と死別して一人で暮らすようになってから、戸惑っていた。そこにひとりの親族が転がってきて家を乗っ取ろうとした。母は『ここは私の家だから出て行って』と言うことができなかった。自分の家という感覚が持てなかったのだと思う。そこで、母に代わって『これは母の家だから出て行ってくれ』と伝えた」というもの。
私が話したこと、考えたこと。
・たけぶんの3階に一泊させてもらったとき、うっすらと「所在のなさ」を感じた。自分のベッドは与えられていて、くつろいでくださいと言われているのだけど、どうすればくつろげるのかがわからなくなってしまったような、体の置き場がわからなくなってしまったような感じ。アルス・ノヴァを見学させてもらったときも、同じような感覚があり、「なにもしないでその場にいる」ことの難しさを思った。この所在のなさを以前も経験したことがあるような気がして、記憶を辿った。十日町(新潟)の特別養護老人ホームに、作家の友人たちと6人で3ヶ月滞在するプロジェクト《×日町/2012年》のとき、駐車場に自分たちが寝泊まりするための小屋が完成する前は、施設の部屋をひとつお借りして寝床にしていたのだけど、そこで寝ていたときの感じに似てる。そこで感じた所在のなさは、駐車場に小屋ができたらだいぶ解消された。「自分ひとりの部屋」ができたことで消えた。小屋にいる時はもちろん、施設の中にいるときも、「駐車場に自分の小屋がある」という事実が、私の体の所在のなさをキャンセルしてくれた。このとき小屋はぷかぷかと漂ってどこかに行ってしまう湖面のウキのような私の身体を、あるポイントにとどめてくれるオモリのような頼もしさがあった。釣りの仕掛けにおいて、ウキがちゃんと機能するためにはオモリが必要で、人の体と家の関係はこのふたつに似ている。これと同じことは、ちまたに作った私の寝床にも言える。あの寝床が、浜松における私の精神的な支柱になってくれている部分がある。たとえ、あの寝床の中で過ごす時間がゼロの日があったとしても、あれがあるという事実が大事なのである。「いることを可能にするための場所」が家なのだと思う。
イベント終了後、村上製本のあさみさんがきてくれた。顔をみたとたんに嬉しくなる。あさみさんがカレーを食べようと誘ってくれ、たけぶんのすぐちかくにあるとびきりおいしいカレー屋で、『鬼滅の刃』や『ミセスグリーンアップル』話などをしながらチキンカレーを食した。あさみさんとふたりでご飯を食べるのは至福の時間だった。食後はこれまたあさみさんが誘ってくれ、「みかわや」の近所の「あん」というたいやき屋で、これまたとびきりおいしいたい焼きとコーヒーを買って「みかわや」でおしゃべりしながらのティータイムを過ごす。こんなに素敵な午後を過ごすのは久々だ。あさみさんとわかれたあと、井戸掘り機の材料買い出し。20×50の異形ソケットを置いている店がなかなか見つからず、ホームセンターを三軒まわった。
ちまたパークに戻って車をとめ、その足でちまた公民館へ。あさみさんの「ちまちまトーク」を聞きに。自家出版の世界の豊かさを見せつけられて、清々しい気持ち。10部だけ作った絵本を家族に配るひとの話を聞いて、私の祖父が、祖母が亡くなった時にその懐古録を本にして親族に配っていたことを思い出した。できるだけたくさん売ることだけが、出版の目的ではないのだった。別に売らなくてもいいのである。本は誰でも、気楽に作っていいものだった。近所に村上製本があったらすごくいいだろうな。あさみさんが大学で研究していたというマラルメの話も初めて知ることばかりだった。詩を書くために言語からつくった話や、「絶対的書物」のことなど。
夜は「かじまちの湯」の一泊プランを予約してみた。大量の洗濯物とともに乗り込み、コインランドリーで洗濯機をまわしつつお風呂にはいり、乾燥機に移してまわっているあいだに昨日からの日記とメールの返信などの事務仕事。
12日
寒くて、風が強い。ふきちゃんに誘われ、駅南のクロワッサンが美味しいお店でモーニング。レッツは川みたいだ、という話になる。それも激流。スタッフのみなさんはすごいスピードで流されながら、目の前に現れる仕事を次々をこなしている。同じ流れに乗っているから、スタッフ同士の距離はあまり変わらないのだけど、川の外から眺めるとその位置はどんどん変わっている。レッツで同じ人と再会しても、違う人と出会っているような感じがするのはこのためかもしれない。
この場所でなにかをするにあたっては、それが川であることを加味しないとうまくいかない。たとえば川底にアンカーを打って浮島を作ったら、メンバーはみんな流れに乗っているので、浮島は遠ざかってすぐに見えなくなってしまう。あるいは激流で流されてしまうかもしれない。浮き輪を浮かべて同じ流れに乗るようなことをしないと、状況はすぐに変わってしまう。
お昼からは塩ビ管やステンレス板などを切ったり貼ったり繋げたりして、井戸掘り機の制作。外は風が強くて疲れてしまうのでちまた公民館の一角を作業スペースにさせてもらった。
①1mのVU50管の60cmに切り、横5cm縦15cmの穴をあける
②0.5mm厚のステンレス板を丸く切り、穴を開ける
③3mm厚のゴム板をステンレス板よりも一回り小さいサイズに切る
④ゴム板とステンレス板をネジとナットで留める。これで弁ができる
⑤弁をVU50延長ソケットの中に入れ、VU50管で押さえつけ、塩ビ用接着剤で接着
⑥VU50管のもう一方の端に50→20異型ソケットを接着。これで井戸掘り機の先端が完成
⑦次に井戸枠をつくる。VU75管延長ソケットをギザギザに切る
⑧その延長ソケットをVU75管に接着
⑨延長ソケットから60cmくらいのところまで、小さな穴を開けまくる(水を取り込むための穴)。これで井戸枠の先端が完成
完成した井戸掘り機などを高林さん、あきちゃん、アルス・ノヴァのメンバーにも手伝ってもらい、たけし文化センターまで運ぶ。15時から井戸掘り開始。
まずは井戸枠をさしこむための穴をスコップで掘る。地面は硬かった。浜松は古い街で、このあたりは一等地でもあるので、過去にいろいろな家が建てられては解体されていたらしい。掘っていると、瓦のかけらや大きな石がごろごろと出てくる。歴史のロマンを感じるし、なかなか「土」というものを見かけない都会なので、土が出てくるだけでなんだかわくわくしてしまう。スコップが石に邪魔されるので、掘削は遅々としたものだったけど、そういった障害物が顔を出すたびにまわりを掘ったり叩いたりして摘出し(「耳くそがとれたときのような気持ちよさがある」)、どうにかこうにか続けるうちに少しずつ穴は深くなってくれた。「でっかい石だ!」「交代します!」など、わいわいと作業しているとアルス・ノヴァのスタッフさんやメンバーのみなさんも気になるみたいで、ときどき外に出てきて作業をのぞいたり、手を貸してくれたりした。「ちまた公民館」の常連の方が、この井戸掘りを1ヶ月も前から楽しみにしてくれていたみたいで、積極的にスコップを握ってくれた。この人がいるというだけで、井戸掘りを始めてよかったと思えた。嬉しいし、とても助かった。
16時半ごろ、久保田翠さんが「お茶でもどうですか」と休憩を勧めてくれたことがきっかけになり、作業は終了。初めは絶望的に感じられた硬い地面も、徐々に石が減ってきて焦茶っぽい土の層になってくれた。60~70cmは掘れたと思われる。
公民館の常連の方とあきちゃんと水越さんとおいしいお茶とお菓子を食べる時間。冬に外で身体を動かしたあとに、暖かい室内でお茶を飲むのはめちゃくちゃ幸せだなと思った。常連の方に、なぜ井戸掘りを楽しみにしてくれていたのかと尋ねてみたら、「身体を動かしたかった」とのことだった。やがてこの人も帰宅し、あきちゃんと水越さんと打ち合わせをかねてぺちゃくちゃ喋った。作業をしたあとのお茶の時間がとてもよいという話になり、次回1月17日13時〜15時に、人を集めて行う「大井戸掘り大会」のあとにもこのティータイムを設けることにした。それまでの、村上が不在の期間のどこかでも、日にちを決めて穴を掘り進めてもらうことになった。17日からは井戸掘り機を使って掘り始める。
(井戸ほりメンバー)
いそべさん
あきちゃん
みずこしさん
さとうさん
たかばやしさん
山崎さん
あべちゃん