01152012 | 

ある手紙に対する架空の返信

あなたは、やりたいことをして生きていける人間は一握りだ、と言いました。多くの人間は、やりたいことをやりたいと思いながらも、それでは生活できないので、本当は嫌な仕事をして、生活のために、家庭のためにがんばっているんだ。という言い方をしました。あなたの目には、彼女が”安定した仕事”について生活をための我慢•努力をしていない、将来の計画がたてられない能天気な落ちこぼれのような存在に見えるのかもしれませんね。しかしおそらく彼女は”将来の心配をしていない”ことはないと思う。彼女には、どうしても見過ごせない何かがあった。このままでいいのだろうか、私は。という疑問が、歳月を経て耐えられないくらい大きなものとなり、ついには大学をやめるまでになってしまった。彼女のほうこそ、不安でいっぱいなのだと、どうして思えないのか。あなたは言った。日本はどん底だと。ならばなおさら、いままでと同じ方法ではだめかもしれないと、どうして思えないのか。いま、僕たちの生きるこの社会の軋む音が至る所から聞こえてくる。この音を聞きとることができる人は、「大学を卒業し、定年まで雇ってもらえる企業に就職して、定年から死ぬまでの20年間ぶんのお金を、働けるうちに貯めて、そして老後を迎える。迎えられる。」なんてことを考えられるはずがありません。仮にあなたのいう生き方を遂行できる社会だとしましょう。だとしても、”就職するために”大学に入り、”将来のために”就職し、”老後のために”定年まで働いて、それで退職し、死ぬまで貯金で生活する。それでどうなるのですか?いったい、そこになにがあるのですか。寿命まで生きるための暇つぶしのようにしか思えない。それは幸せな人生だと本当に思えますか。あなたは「みんな我慢しているんだから、お前も我慢しなさい」と言っているように聞こえる。やりたい事をできるのはほんの一握りだ、と彼女にいうという事は、お前はその一握りではない、やりたいことをできない人間だ、と言う事とどう違いますか。あなたは彼女に、やりたくない事を我慢してやりなさい、みんなやっているんだから、と言っている。
そもそも「やりたいこと」とかいっている時点で既に終わっている。あなたの言う「やりたいこと」はいつまでたってもできない「やりたいこと」です。「やりたいこと」というのは、常に私たちの前から逃げていきます。なぜなら、僕たちはある満足な状態を持続させることができない。何かに満足したら、また次の欲望をもってしまうようにできている。あなたの言い方では、「やりたいこと」をやれる日がくることは永久にありません。「やりたいことをやる」のではなくて、「あなたがやったことが、やりたかったことになっていく」のだとどうしてわからないのか。やりたいことをさがしてから、やる意味をさがしてからやるのでは、永久にできない。そうではなくて、やったことが意味になっていく。(これは「やることに意味がある」とは違います。それは慰めにすぎない。)繰り返しただ消費していくだけの日々の中に、人間の生の輝きはありません。あなたは、将来の展望が見えないと不安で仕方が無いのでしょう。働きながら年老いて、退職して老後を迎えて死んでいく。その道筋が見えないと不安なのでしょう。「60歳まで雇われる」。しかし、そんなの牢獄でしかないじゃないですか。この世界はなぜこのようなあり方をしていて、別様のあり方をしていないのか、考えたことはありますか。僕たちは、昔から様々な生活のヴァージョンを経て、今の生活のヴァージョンの中でとりあえず生きているにすぎない。今でも、世界には別様の暮らしがたくさんあります。あなたがメールで書いてくれたような”幸せのありかた”は、ほんのひとつの、小さな小さな考えに過ぎないかもしれないとは思えないのか。もっというと「あなたが彼女のいまの生活に対して不安を抱いてしまうこと」それ自体が、「この競争原理的な資本主義社会を加速させるために仕組まれた巧妙なトリック」であるかもしれないと考えたことはありますか。かつて団地で澄む事がトレンドなのだとされていたころ、あるいはマイホームを買うことが幸せだと奨励されていたころ、”現代の理想的な生活スタイル”なるものがプロパガンダされたころの名残が、あなたのような思考を生むのかもしれない。
話がすこしそれてしまったけど、要するに、娘の不安をわかろうという気持ちが、よりそって一緒に考えようと言う気持ちが文面から感じられない。自分の価値観を相対化できない。押し付けていると気づかずに、押し付けている。視野狭窄に陥っている。手紙では埒が明かない。とにかく一度会って徹底的に話をするべきだと思います。

01152012 | 2014 | 未分類 | Comments (0)

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