5月10日の日記

ここしばらく京都・滋賀付近で土地を探しているのだけど、ネットで目星をつけていた物件をいくつかピックアップして、今日初めて見にいった。夜行バスで。夜行バス、なかなか良い。もう体力的に乗れないなあと思っていたけど、いざ乗ってみると楽しい。だいたい新幹線や飛行機のスピードは常軌を逸しており、長距離を移動した感じがない。その点夜行バスは、日にちを跨いで移動するし、夜を駆ける感じが良い。なにか単純に安いという魅力以上のものがある。
早朝に京都駅につき、レンタカーを借りてまずは一番期待していた亀岡の土地に行った。ところが現場はグーグルの衛生写真でみるよりもはるかに鬱蒼としていて、この木を刈るだけで大仕事になるな、と。道も狭く、道からの段差も大きくて、要するに全然だめだった。衛生写真では状況は何もわからなかった。やっぱり安い物件にはそれなりの理由がある。レンタカーをぶつけなかっただけ偉い。
それから大津市にある不動産屋をふたつ訪ねる。そのうちのひとつが、普通の一軒家みたいな事務所で、前に車を停めたはいいものの、入るのをためらってうろうろしてしまった。一応ガラスの引き戸に不動産取扱者を証明するステッカーが貼られていたので、意を決して開けようとしたら鍵がかかっている。左に外階段があり、二階にも入り口がありそうなのだけど、なんの案内も掲示されてなくて、しかしここまできたのだからと階段を上がり、ドアを開けたら開いた。玄関の目の前に大きなコピー機があってので、ああやっぱり事務所なのかとほっとして、すいませーんと声をかけてみたら、はーいと男性の声。入ると、めちゃくちゃ採光の良い部屋にデスクが五つばかり並んでいて、書類で雑然としている。おじさんが二人いた。おじさんはふたりとも僕を見ていた。ふたりとも、手が止まっていた。白い光に包まれた、すこし埃っぽいけど神々しい部屋で、二人の幸福そうなおじさんに見つめられながら時間が止まった一瞬の景色。しばらく脳裏に刻まれそうだ。
あらかじめプリントしておいた物件情報の紙を掲げて、この物件をみにいきたいという旨を伝えると、手前にいたおじさんがきわめて和やかに、ああ、それね、ええと、地図が欲しいですか?と対応してくれた。
そこはね、いいですよ。最近問い合わせ増えてて。市街化区域外だから自由にできるし。何に使うんですか?ソーラー?と聞いてくる。ソーラーパネルを設置するために土地を買う人がかなりいるということだろうか。ソーラーではない旨を伝えると、固定資産税は8000円くらいだけど、そこ水道引くのが大変なんですよ。近くの家の人に聞いてみたら、こっちの道路の公共水道から自分で引いたって言ってました。たぶん何十万か、かかる。博打打つなら、何メートルか井戸を掘れば水出てくるかもしれけどね、と。博打打つのもいいですねえ、とかなんとか言って地図をもらい、また連絡しますと出ていく。
それからもう一件、同じく大津市の別の不動産屋へ。女性が対応してくれたのだけど、たぶんその人ひとりだった。それほど広くない事務所で、密室で、そして僕は男性なので、なにか緊張させたりするようなことはしなかったか。そのときに意識的に、もっと丁寧すぎるほど丁寧に振る舞えればよかったけど、大丈夫だったかとか、色々と考えてしまう。過敏か。でも逆の立場だったらまあ嫌だろうなと。
しこたま物件を見た。そのうちのひとつはどこからどこまでが対象の土地なのかも分からない、山奥にある水の音がする森。大きな岩があって、立派な木がぼんぼん生えていて、あまりにも森だったので、うわあ、森だあ、と気がつけば一人で呟いていた。滋賀県高島市、めちゃくちゃ綺麗だった。大津にもひとつめぼしいところを見つけた。
帰りぎわ京都で友人たちが激うま弁当をご馳走してくれた。久々に飲むと、酒ってほんとうにおいしいなあと、ほんとうにおいしそうに言っていたのが印象に残る。ビールとワイン。気がつけば帰りの夜行バスの出発30分前とかになっており、慌てる。けっこう走ってどうにか間に合ったのだけど、車内で吐き気に襲われ、焦った。過去最高レベルに焦ったかもしれない。ここで吐いたらとんでもないことになる。もしかしたら伝説になるかもしれない。幸いなことにトイレ付きのバスと書かれていたので、見渡してトイレを探したのだけど、車内は寝静まっていて、暗くて、トイレがどこかわからなかった。そしてあちこち首をまわしているうちにまた気持ちが悪くなり、窓の外を見る、と繰り返していたら、ちょうどドンピシャなタイミングでサービスエリア休憩に入った。トイレで吐こうとしたが吐けず、うろうろしているうちに吐き気はおさまり、バスに戻る。おさまった。断じておさまった。

Posted by satoshimurakami