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友人の紹介で、朝6時から3時間くらい、ブルーベリー摘みの仕事をしている。たぶんブルーベリー畑としては小規模なその農園は湖が見える道沿いにあって、朝着く頃には向こう岸の山に筆で描いたような雲がかかっていたりする。ブルーベリーの木は等間隔に並んでいて、道路向こうの「南」と「北」とか、エリアがいくつか分かれていて、朝三人でそれぞれの担当区域を決め、竹籠を紐で腰に巻き、自分が担当することになった地区の端の通路から、一列ずつブルーベリーを摘み取っていく。茎の近くまでちゃんと黒く熟したもの(赤味が残っていないもの)で、かつ小さすぎない実、を選びながら摘み取る。これからこの通路をやっつけるぞ、と決め、作業を始めるのだけど、条件に当てはまる実を探すのは、慣れていないとなかなか時間のかかるもので、太陽が逆光だったり、葉っぱの裏や梢の真ん中あたりに実が隠れていたりして、この木で収穫すべきものは全て摘み取ったと思っていても、ふと目についたところで、それまで見逃していたことが信じられないほどわかりやすいところに、真っ黒に熟した大粒のそれが目に入ったりする。一本の道を手前から順番に進んでいって、最後まで行って突き当たり、戻ってくるときにも、さっきは目に入らなかった実が次々と現れたりする。この収穫作業において、同じ道は一本もない。同じように見えて、すべて違う道を歩いているみたいだ。その時の自分の気力や、光の差し方、風の塩梅などで、すべての道が一度きりのものになってしまう。この作業は、昔やっていたパチンコ屋の清掃バイトに似たところがある。パチンコ店におけるパチンコ台は、シマと呼ばれる区域ごとに固まって並んでいて、ぼくたちはシマとシマのあいだの通路を、手前の台から順番に拭いていく。そのときに重要なのは、丸い金属製のハンドルや、玉の受け皿や、ガラス面についている指紋の跡を消すことである。指紋がついていると、他がどんなに綺麗でも、その台は汚れている、とみなされる。しかし、いくら指紋をすべて拭きとったと思っても、通路を引き返してくるときに、光の角度によって思いもよらないところに指紋が残っていたりする。その感じがブルーベリー摘みに似ているといえば似ているのだけれど、パチンコ店の掃除は時間との勝負で、開店前の2時間ほどで、少数のチームで店内の全てを掃除しなければならない(パチンコ台の拭き掃除だけでなく、床のモップがけや、床にこびりついたガムをヘラでこそぎ取る作業など、いろいろある)ので、1台の台に何分もかけているわけにはいかない。ブルーベーリー摘みは、基本的に一本の木にかける時間はその人に委ねられている。つまり、ぼくに。パチンコ屋は白い蛍光灯に、白いリノリウムの床だけど、ブルーベリー畑は太陽光で、地面には草が生えていて、毛虫もいるし、蜘蛛もカエルもカミキリムシもいる。環境はぜんぜんちがう。でも、人間が自分の所有する土地のなかで行っている商売という点では同じだし、ものの並び方や、作業の進め方に共通するものがある。その共通項を抽出して、書き起こしてみることはできるだろうか。

Posted by satoshimurakami