0706
「いま住んでいる仮設は山の上の方にあって、とても良いところで皆よくしてくれる。でも震災前はまさかここに住むことになろうとは思ってもみなかった」
と、お父さんが言っていた。流される前の家があったところと、いまの仮設住宅があるところは数キロしか離れてない。ずっと移住している僕からしたらそれはただの「数キロ」でしかなくて、同じ地域のようなものなんだけど、ここに住んでいた人からしたらこの数キロっていう距離は大きいんだろうな。それは自分の実家を思い浮かべればよくわかる。学区が違ったり町会がちがったりするだけで、自分の住んでいるところとは全然違う場所のような気がしたものだった。そういう行政的な区分けとは無関係に動いているんだな。
お昼頃絵を描いていたら気分がわるくなってきた。ときどき訪れるこの吐き気はなんなんだろう。昨日のトンネルのせいなのか疲れてるのかいつものビタミンB不足なのか。すこし横になったら良くなった。いつでも眠れるって環境のときは寝る気にならなくて、眠いときはたいてい眠れる環境にいないのだ。寝た方がいいとわかっても夜更かししたりしちゃうのだよなあ。残念だ。
3時頃に鵜住居を出発して大槌町に向かう。ここにも知り合いが一人いて、今日はその人の家の駐車場あたりに家を置かせてもらえればいいと思って、のんびりしすぎた。そしたらその人と全然連絡が取れず、あっというまに空が暗くなりはじめた。
やばいどこか探そうと思っても、大槌町も津波の被害がひどいところで、一 面なんにもなくなってしまっている。見渡す限り草原と化している。休日なので復興工事も休みらしく、ひと気がない。ツイッターで「家の置き場を探していま す」って呼びかけたりしたけど特に収穫もなくて、家と一緒に呆然とたたずんでいたら釡石の友達から
「最悪、家はどっか置いてうちきてもいいよ」
というメールがきた。「救世主だ」と思った。「ヘルプ」というメールを返した。
そしたら1台の車が近寄ってきて
「子供と写真とってもらってもいいですか」
と、子連れのお母さんが話しかけてきた。すかさず家を置けそうな場所を探している事を相談したら 「すぐ近くに一般の車も停められる大きな駐車場があって、そこなら置いといても大丈夫だと思う。敷地っていっても、ここらは津波で流されちゃって敷地も何も ないような状態だから、どこ置いても大丈夫だと思うけどね」 という。たしかに、こんな草原と化したようなところで「家を置く敷地を探している」っていうのはなんかおかしいというか、皮肉な話だな。
その駐車場に行ったら、なんか人がぞろぞろと集まってきてみんな写真を撮りまくってくる。そこは大槌町役場の仮庁舎だった。明日までだったら置いといていい よと言ってくれた。
そのあと釡石の友達に車で迎えにきてもらう。ありがたすぎる。そして車は本当に速いな。