0722
朝9時半頃にバックパッカーズを出発。おにぎりを持たせてくれた。次の大湯温泉という町まで26キロ。そこまでずっと山道だった。「熊出没注意」って書いてある看板が 至る所に掲げられている。おそろしい顔した熊が襲いかかってきてるイラスト付き。熊は本当にこわいから、買った鈴を手でならしながら歩いた。途中、スズメバチの死骸を たくさん見た。スズメバチは死んでも威厳を失わない。
夕方5時前に大湯温泉に着く。ここで久々に打ちのめされそうになった。山あいにあるからなのか、町に入った時からなんとなく閉鎖的な雰囲気は感じてた。
まず敷地を確保しないといけないと思い、まずは町に4ヶ所くらいある共同浴場のうちのひとつに行って、いったん家を駐車場に置いて、中に入って交渉してみた。そうしたら
「自分はここの責任者じゃないからなんとも言えない。もう少し歩くと支所があるからにそこに行ってみたら一番良い。外にトイレもあるし。」
ということなので、家を持って出発しようと思ったらこの浴場の管理者を名乗るおじさんが通りかかって僕の家を指差し
「あんた。なんだこれは。誰の許可でここに置いてるんだ」
と言われる。「あー、このパターンかあ」と思って
「すぐどかします」
と言ってすぐに去った。ここは交渉しても駄目だろう。久々に言われたな。で、支所に行って話してみたらこっちでもまたあからさまに不審そうな顔をされて
「ここは公共施設だから無理ですよ。セキュリティの問題もあるし」
と言われた。まあ予想はしてた。「公共施設だから無理」っていう理屈は意味がわからないし、「セキュリティの問題」ってのもただの建前なんだろうなと思いつつ
「近くに寺か神社はありますか?」
と聞いたらひとつ教えてくれた。役所にいた二人のうちの一人は話しているうちにすこし協力的になってくれて、地図を見ながら
「あとは、向いの建設会社さんとか、ここのコーヒー屋さんとかは駐車場はあります。大丈夫かどうかわかりませんが。」
とのこと。こういう時に役所で個人の会社や店の名前が出てくるのは良いな。で、まずはお寺に向かう。お寺に着いて家を置いて声をかけても誰もいなくて、しばらく近くを探してみたけど人影が 見当たらなかったので、諦めてまた家を担いで出て行こうと思ったら車が入ってきた。車に停まってもらって開いた窓ごしに
「すいません。お寺の住職さんですか?」
と聞いてみる。相手は車の中からこっちをみているんだけど返事がない。ん?聞こえてないのか?と思ってもう一回同じことを聞いてみる。 それでも返事がない。もう一回聞いてみたら
「はい」
と返事が返ってきた。ああ聞こえてなかったんじゃなくて不審がっていたのかってそのときにわかった。その人はいったん車から降りてくれたんだけど、事情を説明しはじめ ると、話も半分のところで
「ごくろうさまです」
と言って背を向けて車に乗り込んだ。敷地の交渉をしてみたら
「いや、そういうのはちょっと」
という答え、というか「呟き」に近い。なんていうか「これは人間扱いされていないな」と思って、これ以上いたら通報されると思ったのでそそくさと出て行った。そしてこのとき「会社で営業やってる人って大変だなー」と思った。今日は調子悪いなあと思いながらも、もう6時近くなっていたので落ち込んでいる暇がない。どんどん次に行かな いと。でも「こんな町二度と来るか」って何度も何度も思いながら歩いていた。今思うと、岩手や宮城や福島など、津波でダメージをうけた地域は、外から人がたくさん入っ てるのもあって、心がオープンになってる人が多かったかも。港町ってのもあるんだろうけど。
歩いてたら道でおばちゃんに話しかけられた。事情を説明して
「敷地を探してるんですよー」
って話をしたら
「まあかわいそう」
となって、どっかないかしらねえって考えてくれた。そしたらどこからともなく人がたくさん集まってきた
「大丈夫かそいつ。クルクルパーじゃねえのか」
って声も聞こえる。そういうのはもう慣れた。うち一人が
「すぐそこに温泉施設があるからそこ行ってみたらどうだ」
って教えてくれたので、行ったら「ゆとりランド」という入浴施設がある。フロントで話してみたら 「ここは隣のホテルが経営している場所なので、そちらで聞いていただけますか?」 と言われる。ああホテルかー、じゃあ無理だろうな宿泊施設だし。と思いつつ、そのホテルのフロントに行ってみたら、そこの支配人が待っていてくれた 「このホテルの支配人です。どういったご用件でしょうか」 と言って名刺までくれた。「人間扱いされてる!」と思って嬉しくなって勢い良く事情を説明してみたらその人は「くくくっ」て笑いながら
「いいですよ。面白いですね」
と言ってくれた。ホテル鹿角!ここはホテル鹿角。3度失敗した後だけに、嬉しすぎた。というわけで今日はその敷地内を一晩借りることに。
「ゆとりランド」で風呂入って出てきたら知らない人からメールが来ていた。この町に住んでる者で、村上さんに興味が湧いたからぜひお会いしたいとのこと。その人にホテ ルまで来てもらってすこし話し込んだ。なんと同い年だった。東京の大学を中退してそのままふらふらしてたら、ガソリンスタンドをやってる親から呼び出されたらしい。
僕の話を聞きながら「それはいい人あたったなあ」とか「それは良い場所みつけたなあ」っていうふうに、こっちの気持ちになって同意の相づちを打ってくれるのが印象的。
「じゃあ当面はガソリンスタンドで働く感じ?」
って聞いてみたら
「うーん。一生終えるね」
との答え。かっこいい。ここに、ガソリンスタンドを生業にしていく覚悟を決めた同い年の人がいる。すごいことだ。
「このへんでは外から来た人がいると「あいつはどこのやつなんだ」って感じでまずは見られる。そしてどこの者かが人づてにわかってきたら「じゃあ大丈夫」ってなる。気 にしない人は気にしないけどね」
と話してくれた。