0905
朝起きたらもう隣のおじちゃんはいなかった。暗いうちに発ったらしい。
「もう帰らないつもりで出てきた。最後の場所にいく」
って昨日言ってた。重い言葉だった。
雨が降っている。もう服がない。洗濯したんだけど乾かない。洗濯物は乾かないし、iPhoneのUSBケーブルが断線して充電ができない。コードの中で切れたんじゃなくて、コードが文字通りぶちっと切れた。だから電池が切れたままになってる。裸の上に上着を羽織って、靴下をはかないで靴だけ履いて雨の中歩きはじめた。十日町方面へ向かう。iPhoneのマップが見られないので、道の駅で簡単な地図をもらった。考えたらこういうのは初めてだ。iPhoneの電池が入ってないってだけで結構不安な気持ちになる。iPhoneはすごい。絵をアップするのに必要なカメラ機能と日記をアップするのに必要なインターネットと、地図と電話とメールと音楽プレーヤーと、夜はライトにもなる。定規にもなる。マネージャーを失ったような気持ち。
新潟はほんとうに雨ばっっっかり。この雨が美味しい米をつくるのだろうけど。素足で履いている靴はもうびっしょりで気持ち悪いし蒸し蒸しするのに長袖をきて汗だくになってるしで、とてもいらいらしながら雨の中ずっと歩いて、十日町市に入ったばかりのところにあるカフェで休憩した。そこのマスターに
「このあたりの地図はありませんか?」
って聞いたら、彼はごそごそと探して
「こんなので役に立てば」
と言って、その地区の小学校の学区が示されている町内向けの地図を貸してくれた。こんなものなかなか見られない。地元の企業の広告がたくさんあって、地図には一軒一軒の家の名前が書かれていた。そうだった。僕からしたらいらいらしながら雨しのぎに入ったカフェのある町ってだけだけど、ここで生まれて仕事をして死んでいく人がたくさんいるのだった。
十日町の道の駅まであと5キロくらいのところで、女の人に話しかけられた。
「なにやってるんですか?」
「家をもって歩いてるんです」
「おお。音楽すきですか?何聞きますか?」
音楽?会ってすぐに音楽なにききますかって言われたの初めてだな。笑っちゃった。けど面白い質問だなと思った。たしかに好きな音楽の趣味で人柄わかりそうだし。
「道ばたで好きな音楽聞かれたの初めてですよ。音楽は好きですよ。」
「わたし音楽すきなんですよ」
といってMP3プレーヤーにスピーカーをさして尾崎豊やらさだまさしやらを流しはじめる。
「逆方向いく予定だったんですけど、案内しますよ」
といって、彼女はついてきた。なんかドラクエのパーティみたいだ。僕が通行人に挨拶すると彼女も挨拶する。彼女は歩きながら一人でずーっとずーっとしゃべっていた。僕が返事してもしなくても関係ない。たぶん名前をつけてしまえば多動性なんちゃらとか躁鬱病とか統合失調症とかいろいろあると思う。本人も
「わたしの病気はなんかよくわかんないらしいですよ。人格障害です」
とか言ってる。話しながら歩いてて、内容よりも、ほんとにぜんぜん話がとまらないなーってことが面白くて笑っちゃう。
十日町の道の駅のそばにあるキナーレにいって、2年前に十日町で×日町プロジェクトをやったときにできた知り合いと再会した。彼はめっちゃ面白がって
「鳥肌たった」
と言ってくれた。そこにとりあえず家を預けて、歩き通して高ぶっていた頭を冷やして、やることを整理した。iPhoneの充電と、コインランドリーにいくのと、お風呂にはいるっていう3つ。話がとまらない彼女も一緒にあーでもないこーでもないと言っている。頭がこんがらがる。結果的に、iPhoneは知り合いに預けて充電してもらえて、まずコインランドリーに行った。
コインランドリーの中型乾燥機が4つ全部まわっているのをみてるのが面白い。みんなそれぞれ持ち主が違うし、お洒落だったり値段が高かったりいろいろな服がはいってるんだろうけど、どれも同じように回されて乾燥させられてる。
なんだか、めざましテレビのネットの話題をとりあげるコーナーで僕のことをやってもらえるらしく、電話取材を受けた。服を靴を洗えた気持ちよさでテンションが高かったのでいい感じで話せたと思う。とても楽しかった。気がついたら40分くらい経ってた。今なら、気分が盛り上がってるときなら何時間でも話ができるような気がする。
そのあとキナーレのお風呂に入ってから、話がとまらん彼女が行くと言っていたパブに行ってみた。彼女はカラオケが好きらしく、宇多田ヒカルやら尾崎豊やらを歌いまくっていた。カラオケの合間に僕に「家庭を大事にしたほうがいい」とかいろいろと忠告をしてくれた。