1012
朝起きて外に出てみたら風がなくなってた。昨日まであんなに強かったのに。台風が近づいてるからからかな。不気味だ。
家を置かせてもらったドラッグストアの近くで絵を描いてからお昼前に出発した。歩いて1時間くらいしたあたりで小学生くらいの女の子数 人から
「なにしてるんですかー?ご飯いりませんか?」
と声をかけられた。ここらは下飯野という地区でちょうどお祭りをやっていて、町の皆で公民館の前に集まって宴会をしてるみたい。この 「祭の宴会に呼ばれる」パターンが定期的にあるな。行ってみたら、やっぱりすごい質問攻めにあった。みんな気持ちが高揚しているから 色々聞きたがるし、家にも入りたがる。神輿につけられてたプラスチックの飾りを窓の上に差されりした。あれよあれよという間にうどんと かオードブルとかビールが出てきて
「食べろ食べろ」
と言われた。僕の正面に座っていて水野さんという人が、心から興味を持って親身に話を聞いてくれた。
「神輿の担ぎ手が足りないんだ」
って話をされて
「泊まる敷地があれば、神輿でもなんでも手伝いますよ」
って言ったら
「それはなんとかなる」
みたいになって、僕は神輿を担ぐ事になった。
十数人の男と二人の中学生男子が主な担ぎ手で、その周りを二人の中学生女子とか子供とか町のお偉いさん方がくっついて神輿を担いでまわ る。100軒くらいの家をまわって玄関の前まで神輿を持っていって、家とか車に神輿をぶつけようとしたり、それを家の人が阻止しようと したりする。過去に松の木を折ったりとか家に傷をつけたりとかって例もたくさんあったみたい。僕の話をよく聞いてくれた水野さんが中心 になって盛りあげる役を担ってる感じだ。二人の中学生男子に前を担がせたりとかいろいろ気を回してた。かと思ったら突然いなくなったり 戻ってきたりする。誰かが担がなくなってもと咎める人はいない。でも担ぎ手は思った以上に少なくて大変だった。一番少ない時で8人しか いなかった。前後左右に2本ずつ担ぎ棒がでてるから、8人は最低人数だ。そんな状態だから、ずっと担いでいられない。だから、家の前に 行く時以外は神輿を台車に乗せて運んでた。僕の地元葛飾も浅草も神輿の担ぎ手がいなくて苦労してた。どこも一緒らしい。水野さんは
「『面白くない』って思われちゃうから駄目なんやろうなあ。若い奴らが次も来たくなるような工夫をしていかんと。」
と言ってた。担ぎ手は少ないけど、中学生男子二人が彼女らしき女の子も連れてきたりして良い感じに祭に関わってるのがとても良い。彼ら がいるのといないのとでは祭の雰囲気も全然違うと思う。女の子が男を見て、男がそれに答えるように神輿を担ぐのだ。
夕方全ての家を周り終わってから神輿をしまう前に、公民館に置いてある僕の家の目の前でもワッショイワッショイとやってくれた。そんで また宴会になった。手伝ったことをみんなで感謝してくれた。
「一人の時に家が歩いてんの見ても声かけんわあ。みんなで宴会してる時だったからよかった」
って言ってくれた人がいた。それから案の定、僕をどこに泊まらせるかっていう話になった。
「敷地さえ借りられれば自分の家で寝るから外でも大丈夫です」
って言うと水野さんが
「いや、それはちょっと失礼や。この公民館はだめなんかなあ」
って言う。町会長は
「町の人間が誰か一緒に寝泊まりするなら、公民館に泊まってもらってええよ」
と言う。水野さんは明日朝早くから山登りに行くらしく、公民館に泊まることはできないみたい。自分は居られないけど、村上さんをどうか 頼むって他の人に必死にお願いしてくれた。
「俺はいなくなってしまうから本当に申し訳ないんやけど、神輿を担いでもらって盛り上げてもらった人に『外で寝てください』なんて、町 としてどうなんや。台風も来てるし。そんなことできるか」
みたいなことを、何度も言ってた。他の人から
「水野さんおってくれたらなあ」
って言われると
「それは本当に申し訳ない」
と言ってた。どうしても山に行きたいみたいだ。そこがかっこよかった。
僕はそのやりとりをそばで聞いてた。神輿を手伝ってもらったっていうのは、街全体の問題なんだけど、その人をどこに泊めるかっていう段階になると町の一人一人個人の問題になる。だからややこしいんだと思う。水野さんの 言い分はみんなが同意していて
「じゃあどうするか」
ってのを話し合ってくれた。結果的に、町の人二人が僕と一緒に公民館に泊まってくれ ることになった。嬉しい。