2015/6/11
今日は、つくば市に住んでいる元映画看板職人の家の車庫を敷地に借りた。
車庫にも「タイタニック」や「無法松の一生」なんかの看板が置いてあったけど、家の中にも色々な看板や俳優のポートレイトが飾ってあった。最近の映画のものもある。静物画のような絵もある。
「これは水性塗料です。水彩絵の具とも違う。看板の塗料ってのは一番安いんですよ。こういうものってのは、今はもうやってる職人はいないですよ。紙はザラ紙。新聞紙とおんなじ紙ですよ。真っ白に印刷してない新聞紙。それをベニヤに貼り付けて、結局は後から後から上に貼り付けていくから。糊と紙がベニヤみたいに厚くなっちゃう感じ。だからね、もう今はもうとてもじゃないけど覚えるまで辛抱できる人はいないし、その必要もないし、今の時代はね。何もかもコンピューターでパパッとやっちゃうから修行もなにもないですよ。
まあでもね、展示会なんかやるとみんな珍しいなって言ってくれるんですけど。今は映画のサークルやってて、昔の名画鑑賞会なんかやるんですよ。そういうときはそのためにポスター描いたりするんです。一日しかやんないですけど。
昔だったら1枚描くのに1日でやっちゃったけど。僕ら芸術家とか絵描きじゃないですから。職人ですから。パパっとやっちゃう。モタモタしてると映画終わっちゃうから。映画は2週間しかやらないですから。
そのかわりインパクトのあるような要領っていうか、遠くから見てもこれは高倉健だ美空ひばりだジョンウェインだってわかるように。早いっていうか要領がいい。芸術家じゃないから。
今は水彩画のクラブで、みんなと一緒に公民館の講座なんかでやってます。絵は好きですから。基本的に絵には変わりないんですけど、絵では食べていけないっていうのがあるから。昔は食べられたんですよ。映画の看板で。だけど今は映画館がないんだから。まあシネコンはありますけど。みんなポスター大きくしたものを印刷してて。だから描こうとしても映画館はないしお金にならないから。
看板屋は50年前までやってました。辞めてからは文字とか、デザイン関係のものに関わってやってきたんですけどね。だから文字も表彰状の文字からゴシック明朝全部やって。他に何もできないからそれで食べてきました。
賞状を書く仕事もやってました。ホームセンターで表彰状をつくる仕事。賞状の文字ってのは独特なんですよ。書道をやってる人の文字じゃダメなんですよ。書体は書道の文字とは別なんですよ。ホームセンターではペットコーナーの看板で犬とか猫とかグッピーを描いたりも。今はパソコンでやってるみたいです。
僕は月謝払って勉強したものはないです。絵も字も全部独学です。真っ白いチラシの裏が真っ黒くなるほど夜中までやった。ものすごい夢中になって、食べるために勉強したから。人に見せたり公募展の会員になるために勉強したわけじゃない。
僕はこれで食べてきた。一応扶養家族も養ってきた。ちょっと文字が人より上手だなくらいじゃダメなんです。お客さんに気に入られないと家族まで飢え死にしちゃう。看板の絵もそうです。夢中になってやった。生活かかってるってのはやっぱり凄い。とことんやった。今はもうやってないですけど。
映画の看板は15歳から30歳までやった。好きだから高校行かないでやった。映画の看板はマニュアルもねいし芸大みたいなカリキュラムもないから。自己流で始まって、東京へいって東京で描いてる先輩と一緒に働きながらね。30で辞めたころは映画はテレビに押されてた。映画のピークってのは昭和35年です。そのころにテレビがバーっと普及した。それから映画は映画館じゃなくてテレビでみるというふうになって衰退してきたんで、このまま映画にかじりついててもだめだと思って。一緒に看板描いてた人はイラストレーターになったり、そういう人はいますけど、映写技師では自殺した人もいる。当時としては花形の仕事だったんだけど。映画がなくなっちゃったから。映画館の支配人なんかやってたのに。今は映画館のオーナー館っていうのはほとんどないですからね。シネコンはあるけど。
僕らは文字やなんかやってたから、あの当時東京の晴海の展示場でいろんな展示会やってたんですよ。今の幕張メッセのところ。あそこへ行っていろんな看板描いたり文字書いたりして。
だから文字と絵だけで生きてきた。一応男だからね、扶養義務というか責任感があるじゃないですか。好きな女性とかわいい子供を飢えさせたり路頭に迷わせたりっていうことはできないですもんね。だから僕は自分でも、夜も寝ないで勉強もしたし。
ゴシック明朝は早かったんですけど、表彰状の文字はね、ものすごい練習して。筆も筆屋に行って一番いい筆を買ってきてね。やっぱり弘法筆を選ばずっていうけど、僕は筆は選ぶ。いい筆といい腕といい紙、全部揃わないと良い仕事はできないから。
人にはね、芸大の教授とかにみてもらうんでない、一般の人が良いと思う絵をかきなさいって言うんですよ。誰が見てもパッと見て綺麗だなっていうものを描いたほうがいいと言ってる。そしてね、絵なんか目くじら立てて勉強しない方がいいよ、って。奥が深いからね。」