08022227
昨日は面白い店がある家の庭を夕方4時ごろに出発。日本では夕方4時から歩き始めるなんてほとんどなかった。スウェーデンは今の時期夜遅くまで明るいからいつまでも歩けてしまう気がする。
今日の敷地は、僕が作ったフライヤーを見て連絡してくれたアーティストの男の子(エーレブルーの美術学校を卒業したばかりで、夏からはロンドンのゴールドスミスカレッジにいくらしい)の家の庭。家は黄色い壁の木の家で、家の周りを囲んでいる芝生の庭には古い木が何本も生えている。トマトやバジルやパプリカを育ててる小さなビニールハウスがあって、多くのスウェーデンの一軒家の庭と同じくいくつかのテーブルと椅子が置いてあって、あと大きな犬がいる。とっても人なつっこくてやんちゃな若いわんこなんだけど、よく訓練されたハンティングドッグらしい。あとで知った。
連絡をくれたアーティストの子は、モーターや機械を使って人形や植物やアコーディオンを動かして、不穏な雰囲気を醸し出すスカルプチャーを作っている。家に小さいころ描いた絵(シルクハットをかぶったピエロのような人が、ドクロの風船を持って笑っている絵)が飾ってあって、彼はそれを僕に見られて「これは、遠い昔に描いたやつだから。母さんが好きだというから飾ってあるんだ」と若干恥ずかしそうにしていた。
彼には兄弟がいて、彼は東京に住んでアニメや音楽の仕事をしているらしい。「先輩クラブ」という、カルト的な人気があるアニメーションの作者で、初回をスウェーデンでつくり、日本に持って行ったところ大受けし、いまでは日本に住んでアニメの続編などをつくっているという。
お父さんはアメリカ生まれで、お母さんがスウェーデン生まれ。お父さんは世界中を旅した経験があるらしく、日本にも行ったことがあると言っていた。見た目が若干怖いけど、知的でとてもやさしい人だった。
僕が「スウェーデンの人々と、日本人のメンタルは似ているところがあるかもしれない」と言ったら彼も賛同していた。「シャイな人が多いけれど、一度仲良くなったらとても親切で、温厚で静かな人種だ」と。
彼はハンティングの趣味があり、銃を何種類か持っているというので見せてもらった。ショットガンや2キロ先まで狙える本物の狙撃銃を持たせてもらった。スウェーデンでは非常に厳しい試験や検査をパスすれば銃が所持できるらしい。僕は本物の銃を見るのは初めてで、どの銃もとても重い。持つと動悸がした。これで人を何人も殺せるのか、と思うと動悸が激しくなった。最近、人がたくさん殺される事件があまりに多い。そういう犯罪を、自分とは違うとんでもない奴がしでかしたことだと考えるのは簡単だけど、残念ながら暴力への欲望はほとんどの人の心のどこかにあるものだと思う。やっぱり生き物だから。エーレブルーには狙撃場があるらしく「もしやってみたければ、今度シューティングに連れていくよ」と言われたとき、僕は心底「この銃を撃ってみたい」と思った。だから「ぜひやってみたい」と言った。だけど「銃を撃ってみたい」っていう欲望が自分の中のどこから来るのかわからない。
夜になり家でみんなでご飯を食べ、しばらくゆっくりしたあと「それじゃあ僕は家に戻ります」と言って庭の家に戻ろうとしたらお父さんに「君が「家に戻る」と言うのはなんか変な感じだな。庭に君の家があるんだから」と言われた。たぶんこの変な瞬間に、このプロジェクトの肝がある。
翌朝この家のお母さんと庭で朝ごはんを食べた。彼女は「アメリカは素晴らしい自然があるし、素晴らし人々もいる。だけどスウェーデンのほうが住みやすいと思う。やっぱり犯罪は多いし、格差もひどいし、あと最近出てきたトランプ。なんだアレは」と言ってた。
僕は家の外壁を見た。多くのスウェーデンの家と同様、縦方向に組まれた木製で色は黄色。ところどころにトンボやトカゲなどをモチーフにした飾りがついてる。彼女は「壁は自分たちで定期的に塗っている」と言った。「昔から黄色なのか」と聞いたら、「2年に1度、壁を1面ずつ上塗りしてる。いっぺんに塗ると大変だから。だから昔から黄色しか塗ってないの」と言った。
そういえば住宅街を歩いてると、時々家族で壁を塗ってる家を見かける。「日本ではあまり見ない光景だ」と言ったら「スウェーデンでは、壁の色を塗ったりするのが休みの主な過ごし方だ。アメリカもそうだった。」と言った。
だからかもしれない、エーレブルーの住宅街の色合いは全体的にマットな質感で手作り感があちこちから感じられる。日本の住宅街と違って、キラキラしてたりピカピカしてたりしない。みんな「自分の家に住んでいる」という感じがする。日本の住宅街で時々感じる「住まわされてる感」がない。