3月24日(3日目)
正直、自動車教習どころではない状態なんじゃないかと思いつつ、何しろ始まってしまっているのでやりきるしかない。教習の時間中ずっと、働いてるみたいな気持ちだ。お金払ってるのに。今日は朝はやく起きてしまって、テレビをつけて森友学園の籠池さんに野党の議員が接見したというニュースを、ほとんど耳に入れるだけみたいな状態で聞いて、そしたら7時半になってしまったので下に降りて朝食(朝食は昨日と同じくビュッフェで、鮭の焼いたやつとか卵焼きとか)を食べて、バスにのって教習所にいこうと思ったけど天気が良いうえに気持ちが上向きになってバスに乗る気が失せてしまったので、歩いた。ホテルから教習所まで3キロちょっとあり、講習がはじまる1時間前を切っていたけどまあいけるだろうと思って早足ででかけた。エレファントカシマシのSTARTING OVERをイヤホンで聴きながら、落ち込んだり盛り上がったりしている。忙しいやつだ。こんなやつと付き合いきれないと思うこともあるけどなんたって自分自身なので縁を切ることはできない。空も晴れていて、暖かい。車を洗車しているおじさんがいて「良い天気ですね」と声をかけたくなっちゃったりしながら、でも沼の存在も感じている。
今日の一発目の授業は9時10分からの「標識・標示などに従うこと」という不思議な言い回しの講習。これまたなんのひねりもない教官で、眠い。この眠さどこからくるんだ。みんな眠そうにしている。単純に話が退屈だから眠い。教科書を追うだけでつまらない。つまらないから眠くなるのか?なんらかの防衛本能なのか?
教官が途中
「しにそうな人大丈夫?みんな合宿で来てるってことはギリギリの予定だと思うんですよ。予定通り出たいよって人はきっちりやってください。こっちも、できてない人は容赦なく落としていきますから。いいですよ。このあとのんびりできるよって人は、料金払って延泊していってください」
と、半ばいじめのようなことを言っていた。標識を色々勉強したのだけど、幼稚園あり、とか、路面凹凸ありとか、動物注意とか、落石注意とか、急勾配ありとか、色々あるのだけど、最後に黄色い四角に!マークが書かれているだけの「その他の危険」という標識が書いてある。このマークにそそられる。見れば見るほど怖い。その他の危険ってなんだ?なんらかの悪いエネルギーが充満しているとか、色々想像させられる。
二発目の授業は11:10からの「交差点などの通行・踏切」。ちなみにこれは四時限目で、学校は1日十二時限目まである。1回の講習は50分で、時限と時限のあいだには10分間のインターバルがある。
いま僕は学科教習は1日3回くらい入ってるだけで、加えて1日2回くらいの運転教習がある。
教科書の「交差点などの通行・踏切」の中に、ウェブサイト『ボケて』で有名なあのイラストがあった。「交差点は、最も事故の多い場所です」と書かれたそのイラストは、せいぜい長辺7センチくらいの小さなイラストで、交差点の様子がカラーで描かれているんだけど、その交差点がものすごいことになっている。手前と右奥と左奥に横断歩道があり、左の横断歩道をバッグを持ってピンク色の服を着た女性が、交差点を左に曲がろうとした赤いセダンのような思いっきりハネられている。その衝撃は、黄色いジグザグで表現されている。またそのセダンのすぐ右には、左の道路から走ってきた緑色のトラックが描かれていて、そのトラックと、右の道路からかなりのスピードで飛ばしてきたことが伺える赤いバイクと正面衝突している。この衝撃も、同じく黄色いジグザグで表現されている。さらに、そのトラックの奥、奥の道路から右の道路に曲がろうとしている白いバンが、同じく奥の道路から横断歩道を渡って手前に渡ろうとしていた自転車に乗った子供に思いっきりぶつかっている。同じく黄色いジグザグの衝撃がほとばしっている。三人とも命が心配な衝撃だ。いっぺんに3箇所で事故が。みればみるほど「なんでこんなことに」という気持ちに・・。
これから運転教習。初めてのAT車。
14:41
AT車に初めて乗った。あの77歳のおじちゃんと。おそろしく簡単だった。ほとんどハンドル操作にだけ集中していればよい。クラッチの踏み加減とかアクセルの踏み加減とかいまのギアで正しいかとか、気にしなくて良い。MTもATもそれなりの回数を乗って練習しないと試験は受けられないらしいが、一体何を練習しているんだという気持ちになる。ちょっと簡単過ぎてつまらなかった。MTのほうが、機械を操縦している感じがして楽しい。そのあとすぐ、今日最後の講習。
「追い越し・行き違い」という内容、教官は初日に「心得」を伝授してくれた「良い先生」だ。今日も先日と変わらず良い先生オーラをだしている。僕の後ろに座っている男女4人組くらいのグループが
「マジシビアだわ」
「テストやっても受かんないし」
「俺ら82点だった」
「え?自慢?」
「はあ、まじシビアだわ」
などと、限りなくしょうもない話をしている。自分の中学生時代を思い出した。自分にもこんなしょうもない時代があったとおもうと愕然とする。あったっけ。すくなからずあっただろう。こういう会話は口が先に動いてるものなので、反射的にポンポン発話しなきゃいけないんだろうけど、僕はうまく参加できなかった。「楽しめない自分が悪いんだ」と思っていた。二度と戻りたくない。しかし、このグループは講習中ずーっと話していた。まじでずーっと。録音しておけばよかった。細かく書きおこせば、なにかしら興味深いものはでてくるだろうに。
講習は例によってまず映像を見せられた。カップルがちょっとスポーツカーっぽい赤い車にのって道を飛ばしている。「俺の運転テクニックすごい」みたいな話をしている。そこに黒い車が来て、抜き去っていった。彼女が「ちょっと、抜かれちゃったよ」と、いう。彼氏が「ああ。わかってるよ。みてろ」みたいなことをいって、山道のカーブで対向車線にはみだしながら出て追い抜きにかかる。そこに対向車がきて、「キャー」みたいな悲鳴が聞こえて映像が止まる。そこで「この場合、」とナレーションがはいって
①自分が悪い
②彼女が悪い
③運が悪い
という謎の三択が画面に表示される。後ろのグループは「自分しょ、自分」みたいなことを言っている。僕は机をひっくり返して出ていきたい気持ちになったけどそんなことはせず、ぐっと聞いていた。そもそも机は床に固定されているのでひっくり返せない。しかも、この三択に対する言及は映像の中でも講習の中でもでてこなかった。あれはなんだったんだ。
「良い先生」は、追い越しが禁止されている場所について早口で
「禁止されているのは上り坂の”頂上付近”ですよ。上り坂っていう言葉に線は引かなくていいよ。え、じゃあ上り坂の途中では追い越していいんすか?いいっすよ。歓迎だ!歓迎はしないけど。」
みたいなノリだ。喜劇をみてるみたいだ。
とかいろいろつっこみながら聞いているけど、講習時間以外は全然勉強してない。こんなあれこれ突っ込んでおいて落ちたらかっこわるい。でも僕は昔から勉強に関しては追い込みで頑張るタイプだったし自頭は良い方だと思っているのでなんとかなるだろうでもそろそろ勉強したほうがいいかもしれない。
そのあとすぐ、今度はMT車の運転教習があった。今度はあの77歳のおじちゃんじゃなくて。なんかちょっと茶色がかった適当なおっちゃんだった。
車に乗って割とすぐに
「なんか疲れちゃって脳みそのなかわけわかんなくなってるけどごめんねー」
と言われた。僕は
「え?大丈夫ですか」
としか言えなかった。おっちゃんは笑っていた。彼は適当なところはあるけど、多分ぼくという人をみて話しているところもある。「なんか聞きたいことあれば言ってね」といわれたので「カーブのハンドル切るタイミングはこれで大丈夫ですか」ときいたら「ちょっと早いんじゃない?」と言われた。ほう。また「仕事はなにしてんの」と聞かれた。昨日より元気よく「作家ですね!」と答えた。「儲かりますか?」と聞かれたので「全然儲からないですね!」と答えた。運転しながら。例によって
「君は作家になるってことは、今のうちにサインとかもらったほうがいいのかなー。」
と言われた。今作家やってるって言ってるのに。まあもういいけど。
「そうですね!」
と言った。そしたら
「俺のサインいる?」
と言われたので、「いるわけないだろ」と思いながらも、何も答えなかった。しかし、悪い人ではなかった。実用的ないろいろなテクニックを教えてもらった。半クラッチの使い方など。運転教習のあと、すぐホテルに向かって歩いた。バスで帰るのは嫌だし天気も気候も時間帯も最高だったので歩いて。今日も綺麗な夕暮れだった。ホテルまで1時間弱かかるけどあっという間だ。そもそもバスなんてものに乗って、こんな気持ちの良い夕暮れの街を歩いて帰らないからだめになるんだみんな。それにしても静岡では「さわやか」をたくさんみる。浜松の名物だと思っていたけど、静岡にはたくさんあるのか?
ホテルについてそのままロビーで晩御飯をたべて(今日の、鶏肉のトマトソース和えみたいなおかずは美味しかった。ここにきてベストの味だった。)、youtubeみたりカフカを読んだりお風呂に入ったり洗濯をしたりしたらあっという間に10時になってしまった。今日は小説はまだ手をつけてない。昨日は進められなかった。一昨日は進められた。小説なんてやったことないけど、多分継続的にやるのが大事なんだと思う。
22:23