3月25日(4日目)

人間か猿かよく分からない中にまざってほとんど刑務所みたいなところで過ごしている。まだ四日目?冗談だろという感じだけどまだ四日目だ。もうすでに限界が近いけど、ガーディアンズオブギャラクシーで宇宙船で宇宙を「ジャンプ」するのは、体に負荷がかかるので哺乳類は4回までと決まってるんだぞ!わかってるよ!といいながら何十回もジャンプするシーンがあるけどああいう感じか。ガーディアンズの中では目が飛び出したり体がゆがんだりしながらジャンプを耐えていた。

でも、第1期の座学は今日で終わりらしい。あとは仮免試験までひたすら自主勉強&テストという感じになる。運転講習はまだ続くけれど。まわりが若い子ばっかりなのはまあ興味の対象としては面白いけど、ほとんど猿なので人間は俺だけかどこかに人間はいないのかという気になるし他にももしかしたら同じことを感じている人はいるのかもしれないけどその人はその人でやってくれればよい。僕は僕で人間をやるので。ここにいると、こんなに大勢のいろいろな種類の人間(猿)たちのなかから巡り会えた自分の周りにいる人達を大切にしようと思う。

今日は日曜日なのでホテルから学校に行くバスは午前中だと730分のやつしかないんだけど、例えば寝坊して8時に起きても、僕は歩いてどのくらいかかるか知っているので、焦らず学校にいくことができる。歩いていったことはない人というか猿はパニックになるだろう。歩けばつくところを、バスでしか行ったことないとそういうことになる。僕は猿ではないので、歩けば着くことを知っている。自分にはそういう経験がある。

一つ目の座学は「緊急自動車などの優先・安全な速度と車間距離・オートマチック車の運転」という講習。教官はまたしてもあのオールバックだった。停止距離は、空走距離と制動距離の合計ですという話の説明をするために

「チャリ乗ってて、私よく自転車で例えるんですけど、チャリ乗ってて道路にボールが転がって来たら、ウオーーッってボールを追いかける人はいないよね。まずペダルを離すよね。そしたらまだすーっとすすむよね。それが空走距離です。そこに子供がボールを追って飛び出して来ました。ブレーキかけます!すぐスコンッてとまらないよね?それが制動距離です。」

という話をしていた。僕は自転車にのりながらウォーーッてボールをおいかける男を想像して、そいつはとても面白そうなやつだと思った。

「オートマのいきさつを話しておきましょう。昭和の時代はオートマ限定なんてものはありませんでした。世間でオートマが出て来たころでした。AT限定免許ができたとき、世間ではなんて言われていたか知ってますか?『あんな免許誰がとんの?』と言われていました。年を経るごとに、AT限定でとる人が増えてきて、MT車ももうほぼ製造してないですからね。この教室にいる7,8割の人はATじゃないかな」

たしかに今では「AT限定」なんて言い方もしなくなった。小さい頃は、たしか母親が免許をとったときに「AT限定」っていう言い方をしていて、あの頃に比べてもかなり空気感は変わったと思う。

「あとね、昔こんなこともありました。運転教習中に、大学生の男の子でした。MTでした。でもMTって難しいので、走りだしてすぐエンストして、エンジンかけたらまたエンストしてってやっていて、なんか焦っていて、かわいそうなくらいでした。目に涙をためていました。僕言いました『そんなあせらなくていいよ。君のペースでやってみて』そしたら彼いいました『サークルの飲み会で、女の子に、男はマニュアルでしょって言われたんすよ。やっぱ男はマニュアルですよね』なので『べつに男だからマニュアルとかではないんじゃないの。君将来なんの仕事したいの』『コンピューター関係です』『君絶対マニュアル必要ないよ!』『そうですかね』彼は翌日オートマに変えていました。教習所では変えられます。オートマに。全然強制しません。」

などとにかくいろいろな昔話を感情込めて離すので、あまり眠くならないので助かる。途中「ちょっと空気変えましょう。手伸ばしたりして、あくびしてもいいですよ。暑いと眠くもなるよ。」ということもできるオールバックだ。また彼は、ただ教科書の重要なところを教えるだけじゃなくて、それをひねって、どんな問題が出るかも考えてくれる。免許の試験は結構意地悪というか「出題者、頭悪いな~」みたいな問題が多いだろうに(原付免許を取った時にそう思った)、大変だと思う。

オールバックの講習の次は運転講習で、教官は昨日初めて一緒になった適当なおじさんだった。今日はまだ午前中だったので、昨日ほどお疲れではなかったようだ。彼も25年くらいこの仕事をしていて、「楽しいですよ」と言っていた。「いろいろな人がくるからですか?」と聞いたら「人もあるけど、成長するのを見るのは楽しいよね~」と言っていた。「落ち着いてうまくなって、そしたらゆっくり話を聞かせてください」と言われた。

運転講習の次は、またオールバックの座学だった。「運転免許制度・交通反則通告制度」。自分が担当した教習生が、「教習所行く前に、バイト先の先輩に、俺の車で練習していいよ。駐車場で。って言われたんすよー」と言っていた話や、免許の有効期間が切れたことに気がつかなのは都会の人ばっかりだっていう話とか、近所の人に通報されて、こっそり免許停止中に車に乗ったら警察に捕まってしまった教習生の話とか、「検問につかまりました。免許忘れた!アーヤベー!!さてこの時、無免許運転になりますか?どっちかに手あげてくださいよ。試験の本番のとき分からなくても◯か×どっちかはつけるでしょう?さあの人。ほう。じゃあ×の人。ほう正解は、×です!」とか、あと「理解と記憶は違うよ。わたし授業中よくいうんですけど、『理解と記憶は違う』。ちゃんと聞いたことはメモしてください。」と、ちょっとよくわからないフレーズを連発する。理解と記憶は違うってどういうことだ?その二つを比べる必要はないのでは。またこの教習所では年間4500人くらいの生徒が来るらしい。

そのあとちょっと食堂に人が少なくなった頃を見計らって昼ご飯を食べに行って、しばらく散歩して、いまこの文章をロビーみたいなところで書いているわけだけど、正面の机に座っている女子二人組の一人は髪をすっごく注意深くといて、アイロンまでかけている。もう一人は、なんかスマホ(スマホという言い方は慣れない)を横向きにして何かをじっとみている。右側の机に、パソコンを開いている人をみつけた。男。彼も何かテキストを書いてる。同じような日記を書いていたらぜひ友達になりたい。嘘だ。別に友達にはなりたくない。でも彼のブログなどがあったらこっそり読みたい。椎名誠の運転免許エッセイは最高だ。あとみんな眠そう。

なんというかみんな、心からつまらなさそうだ。屍みたいだ。一般大学とかってこんな空気なのか?

14:28

あのオールバックの先生は百地さんというらしい。彼はもう20年以上この仕事をやっているらしいけど、この学校内ではたぶん彼は仕事ができる人で、生徒の評判も良さそう。そしてそれが彼の尊厳にもなっているんだろう。講習中、彼は輝いている。自分の仕事を見つけたんだという感じがする。愛おしいというか、素晴らしいことだ・・。こんなところにも人間の尊厳が輝いている。こんな掃き溜めみたいなところにも・・。

最後の講習はかなりピンチだった。まだ眠い。「信号に従うこと」という講習。教官はマスク眼鏡短髪の、眠くするのが上手な人。冒頭で「携帯など余計なものはしまってください」と言って映像を流し始め、映像のあいだ教室内の全ての列を、生徒が座っている机の下などをいやらしくみながら歩き回っている。見ていて気持ち悪い。なんでだろう。

授業中眠すぎて、先生の話したことをメモする紙に

「一番前の男子、死んじゃう?大丈夫?ちょっと眠いんだけどね。一人だけ寝ていいよってわけにはいかないんです。→「ニュートラル」っぽく感じた」

という謎の言葉が書いてある。ニュートラルっていうのは、たぶんギアでいうニュートラルっていうことなんだろうけど、眠りに落ちる直前て、思考に不思議な飛躍が生まれる。

「交差点も横断歩道も自転車横断帯も何もないところで、警察官が手信号をやっているとき、車の停止位置はその1m手前である。」というルールがあるのだけど「試験ではこんな問題がでるので注意してください」といって先生が「交差点では手信号をしている警察官の1m手前で停止します」という例題をだしてこれは◯ですか×ですかと言うのだけど、この問題の出題意味は一体なんなんだ。ただの、ひっかけのためのひっかけでしかないのでは。標識を覚えさせたり、法定速度を覚えさせたりするためのひっかけならまだわかるけどこれは・・。他にも日本には制限速度40キロの道路で、全部の車が50キロで走ってるみたいな状況はざらにあるのに全然制限速度を50キロに直さないっていう慣習があることとか、そういうことを考えるほどここにいる時間がマジで時間の無駄遣いに思えて来るけどまあやるしかないけどもうやだ。百地さんは「現場の運転と、教習所での勉強は切り離して考えてください」と、言っていた。それ言っちゃっていいのか?しかし今回の座学は今までで一番眠かった。百地さんの講習がなつかしい。

とにかく人間の知性を限りなくバカにしているような空気感があり、マジで掃き溜めみたいな場所だ。今後教習所ではなく魂の墓場と呼ぶ。屍が歩いている。もういやだ。唯一の救いはみんな18歳とかなので、喫煙所に屍がいないことだ。

17:27

と、上のこの文章を書いていたら、ふたつ右隣に座っていた男性から「マニュアルですよね?」と話しかけられた。「はい」と答えたら「どうですか?難しくないですか?」というので「いやー、難しいですねー思ったよりもずっと難しいです」と答えた。「なに、されてるんですか?お仕事ですか」みたいなことを言うので「作家です、と言うか美術家です。正確に言えば。」と言ったら「まじ。。っすか?」と驚いている。「なんか、教習所の生活がいろいろツッコミどころが多すぎるので日記を書いておいたら面白いかなとおもって書いてるんですけど。」「たしかにそうですよね。作家ですか。そんな人実際見たことないっすよ。おいくつですか」「29です。おいくつですか?」「専門学校の4年生なんで、いま21です。今年で22です。」「そうですか~」「ここに来てる人たちみんな18とかじゃないですか?なんか若くて。。」いやあんたも十分若いし俺だって若いはずだとおもいながら、たしかにここにきてる18とかの人というか猿たちをみてると、自分歳とったな~とか思ってしまう。やはり、同じことを感じている人間はいた。「ですよね~」「なんか、友達とかつくる気なくて、ただ免許とってやろうって感じなんですけど。」

彼から、仮免許試験の予備テストの受け方とか、というかみんなもう今日から受けていることとか、彼はすでに90点以上を二回取っている(15回くらいあるチャンスのなかで、2回以上取らないと仮免許試験を受けられない)こととか、「満点君」というウェブサイトで試験勉強をする方法などを教えてもらった。みんなスマホをいじってるだけかと思っていたけどそれはスマホでもできるのでそれをみんなやっているらしい。

「何日に入校したんですか?」ときいたら「多分一緒です。22日です」「あ、一緒ですね」となったけど、こいつは一体いつから俺の動向を観察していたんだ。あと彼は、僕と同じホテルで、行きも帰りもバスではなくて歩いているらしい。「僕も歩いてますよ。バス嫌なので」と言ったら「なんか、親近感が」と喜んでいた。彼は僕と同じくこのあと18時50分から運転教習で、そのあとジムに行くらしい。彼は専門学校で建築をやってはいるが、もともと自衛隊に入りたくて落ちてしまい、大工になれると思って入った学校が建築の学校で、建築設計と大工は違うんだということにがっかりしながらもいまは就職活動をしているという。人生って面白いな。

4日目にしてはじめて他の教習生とまともな会話をした。

18時50分から運転教習だった。そしたらさっきの座学で担当だった、眠くするのが上手なあの先生だった。彼は、今までの二人と違って、全くスキを見せない。僕の仕事のことなども尋ねないし、なにか運転について聞いてもドライに答えるだけだ。緊張した。しかし、こういう教官相手にちゃんとできないと免許は取れんだろうと思って頑張ったけど、S字カーブのところで入り方に失敗して後輪が側溝に落ちてしまった。でも彼は全く驚いていなかった。よくあるんだろうなと思った。あと2回くらいエンストさせてしまった。でもマニュアルを運転するのは楽しい。オートマ車が世の主流になってるのが残念だ。

今日も今日とて歩いてホテルまで帰った。ぎりぎり夕食の時間に間に合った。11時限目のあとも、歩いて帰って夕食に間に合うことがわかったのでもう怖いものがない。もうバスには乗らんぞ。帰り道、心がいっぱいいっぱいになってしまっていて久々にシガーロスを聞きながら、缶ビールを飲みながらふらふらと歩いて帰ってきた。小説がすすまない。小説を書こうとしすぎているのかもしれない。もうちょっと、こうやって日記を書くようなことにひきつけてかければいいのだけど。こういう日記はほとんど無限にかける。うまくこれを、小説の方にシフトできれば良いんだろうけど・・。カフカを読むぞカフカを。

Posted by satoshimurakami