7月14日

『お金の向こうに人がいる』田内学

近所の書原で注文して手に入れ、あまりの面白さにその日のうちに読み終わってしまった。『広告看板の家』をやるにあたってずっと感じていた違和感、例えば「ぼくたちはお互いに支え合って生活を成り立たせているはずだが、分業が複雑になりすぎているせいでそのことが意識できなくなっている。野菜を買う時に、野菜を育てた農家を助けるためにお金を払おうとは思えなくなっている」「なぜお金を払う人のほうが、お金を受けとって商品を提供する人のほうが偉そうにするのか」といった疑問をじっくりと解いてくれている。僕が感じている違和感は「子供っぽいこと」でも「道徳的」な話でもない。すべて経済学ど真ん中の話だったのだと言ってくれているようで、読んでいてたびたび鳥肌がたった。うれしかった。

松村圭一郎さんの『くらしのアナキズム』のことも少し思い出す。国家は、国の制度を作ることはできるが、国を動かすことはできないということが書かれていた。実際にものごとを動かすのは、現場の一人一人の人間たちである、と。この点と、『お金の向こうに人がいる』の中で書かれていた、国立競技場は1500億円の「予算」があれば建てられるのか?という問いは同じだ。競技場を建てているのはお金ではなく、一人一人の人間たちである。お金で建物が建てられるのは、「人々に労働をさせる力」がお金にあるからである。お金とは「人を働かせるチケット」のことであり、すべてのものは人の労働によって作られている。

自分の財布だけではなく、社会全体の財布のことを考えること。お金とは人を働かせるチケットのことであるから、お金を払うことは、誰かに問題解決を頼むことである。お金を受け取ったとき、誰かを助けている。お金を払った時、誰かが助けてくれている。お金の向こうに人がいる。これを忘れずにおくこと。「経済」のそもそもの目的とは、みんなで幸せになることなのだという直球のど正論を、専門用語を使わずに書いてくれている、著者の誠実なオーラが伝わってくるような本だった。いつか、こんなふうに本を書きたいと思った。書くことへの向き合い方として。

Posted by satoshimurakami