0725
常念岳に友人6人で登った。標高2750メートル。その登山終盤に、涼ちゃんが不思議な体験をした。登り始めて早々からかなり疲れていたようだったが、中盤から後半にかかってその疲れはピークに達し、口数も少なくなり、みんなが大丈夫かなと心配していた。重たい足を一歩一歩どうにか持ち上げ、文字通り引きずるように、後ろからついてきていた。
終盤、難関と言われている「胸突八丁」という急な勾配の登山道にさしかかったあたりで、涼ちゃんは急に目からポロポロと涙を流し始めた。「木の気がすごい」と言った。しばらく涙を流しながら歩いていて、時々「人みたいな木がいる」とか「木に手を触れた時に手を握り返される感じがある」とか、「とにかく優しい感じがする」と言っていた。無事山小屋に到着して、落ち着いたころに話を聞いてみると、疲れに負けないように気をしっかり持たなきゃと思って、一生懸命登っていた涼ちゃんだったけど、すでに体は限界に足していて、もう登りたくない、もう帰りたいと思っていた。それでも気を強く保たなければ森に負けてしまうと思い、気張っていた。そしたらある瞬間、ふと木と何かが通じあった感じがしたという。木の根っこが地面から複雑に突き出ていて、登山客を段差の上へ登らせる階段のようになっているところがあって、そこに足をかけた時、この木はたくさんの登山客を見てきたんだと思ったら、急に森が包み込んでくれたような感じがしたという。君のような客はたくさん見てきた、と優しく言われているような気がしたという。それが励みになり、体の疲れが取れたわけではなかったけど、もう登りたくないという気持ちはなくなったという。完全に消えてなくなったらしい。それから、生まれ変わったらこの木になりたいとか色々と考え始め、怖くなっていったという。