11月5〜7日 Let’s レッツ井戸掘り計画日報

11月5日
浜松の「クリエイティブサポートレッツ」で井戸を掘ったりするプロジェクトがスタート。「ちまたパーク」と名付けられた、元コインパーキングの敷地で。
私有地を公園として開放する、自治されているけどちょっとアナーキーなプライベートパークのような、とても素敵な雰囲気。単管で組まれた櫓があったり、ビニール袋でできた皮膜にいろんなものが貼り付けられていて中にもいろんなもの(ドアとか謎の立体物とか)が中に入っているテントのような作品(柴田さんの作品)があったり、大きな壁には大勢で描いたであろう混沌とした絵があったり、ベンチには誰かのグラフィティがあったり。
昨日から車中泊。夜は静かで眠りやすい場所。井戸を掘るのは時間がかかるので、そのあいだ村上が泊まるための寝床作りからスタート。コインパーキング時代の看板の裏に、看板の骨組みを柱にして寝床を作ることにした。持ってきたものは麻紐とカッターのみ。ちまたパークに転がっている木材や透明なシート、たけし文化センターのパラソルや銀マットやスタイロフォームなどを、スタッフやアルス・ノヴァ(レッツが運営している、障害のある人のデイケアサービスの名前)の利用者の手を借りて運んできた資材だけで作ってみる。資材と資材は主に紐で結びつける。アキちゃん、ミヤマさん、ミズコシさんが担当としてあれこれサポートしてくれる。
朝ごはんは昨日人からもらったサンドイッチだった。まずは地面に転がっていたパラボラアンテナにアルス・ノヴァで拾ったパラソルを差して、いい感じの物体を作った。
昼ごはんに、Googleマップで見つけた定食屋を目指して歩いていたところ、商店街の路上で「ランチやってます」というチラシを持っているキャッチに声をかけられた。焼肉屋。980円で牛すじ煮込み定食が食べられるということで即決して入店。白米の量が多く、眠くなる。
昼ごはんのあと、猛烈な睡魔に昼寝をしようかと車に入ったところでぞろぞろとレッツの人たちがやってくる。ここから近所の「ちまた公民館」によく来るという親子も来た。私の絵本を読んでくれているらしく、サインをした。この親子と、カワセさんというアルス・ノヴァのメンバーが、木材を結ぶのを手伝ってくれた。
15時からレッツで打ち合わせ。12月11~13日と1月17~18日に井戸掘りをすることが決まる。井戸の位置と、井戸掘りイベントの日程(1月17日)も決まる。1時間くらい打ち合わせしてちまたパークに戻って洗濯物をふたつの袋にすべて詰め込んで徒歩6分のコインランドリーへ行く。もう暗い。18時半ごろ、乾燥が終わった洗濯物を乾燥機の中に残したままアキちゃんの家に行く。晩御飯に呼んでもらった。ミヤマさんとりっちゃんも合流。キムチ鍋。昨日の残りの出汁に、具材をたくさん足したもの。私はネギと木綿豆腐を切るのを手伝っただけだ。21時半くらいまでたのしくご飯を食べ、しゃべり、解散。ミヤマさんは耳が聞こえないが、それを感じさせない発言頻度。スマホでみんなの会話の書き起こしを音声認識アプリで常に表示させて何の話をしているのかを読み、なにかあれば話す。この文字起こしアプリの話を聞いたりした。ミヤマさんがいるとなんか安心する。なんとなく、動物に好かれそうな人だ。そのほか、私がりっちゃんとアキちゃんと出会ったMMMという、かつてあったアートイベントの思い出話をする。帰り道は途中までりっちゃんと一緒だった。無言館と鹿教湯温泉に行ってきたという話を聞く。コインランドリーによって、服を畳んでバッグに入れ、ちまたパークに戻ってお風呂セットを準備し、昨晩も行った徒歩5分のスパに行く。ザザという施設の中に入っている「かじまちの湯」という。徒歩5分のところに漫画が読める風呂場がある、とても便利な敷地だ。1時間600円。風呂上がりにチェンソーマン6巻を読む。ちまたパークに帰ってきたら0時。
11月6日
二日目。今日もファントム(車の名前)で目覚める。顔を洗うためにコンビニへ向かうが、いちばん近いふたつのコンビニはどちらもトイレの貸出をしておらず、3番目に近いセブンイレブンへ。しかし途中で気が変わりザザに入りそこの公衆トイレで顔を洗った。コンビニでサンドイッチを買ってちまたパークに戻り11時くらいから家づくりを再開。
木の板で大枠の壁をつくり、その隙間をプチプチで覆っていく建築法を思いつき、そうする。
CDショップの看板だったという、大きくて赤い「D」の文字が転がっていたのでそれも壁にする。「D」には電球がはまっていたとおぼしき穴が何個も空いていたので、その隙間を埋めるのにアルス・ノヴァでもらってきたCD-ROMを使う。13時くらいに「みかわや」のタケヤマさんとあさみさんと辻さんが訪ねてくる。久々に会えて嬉しい。13時20分ごろ、辻さんの車に乗ってみんなで「みかわや」へ。私と辻さんはみかわやのテーブルを使わせてもらって「あいち」のオンラインミーティング。ミーティング終了後、みかわやでハイネケンを買って飲みながら16時過ぎにちまたパークに戻る。眠くなってファントムで寝てしまった。
18時ごろから外が騒がしくなってくる。人が大勢集まっていて、ミュージシャンのマッスルNTTを中心に、なにかのパレードの練習をしているらしい。レッツのふきちゃんが「スナックありじごく」もやっていた。カンパ制で、数人でおでんをつつく。私はビールと酔鯨を飲む。秋田の「オルタナス」で出会った、タカナシさんというアーティストと再会する。アーツカウンシルしずおかのマイクロアートワーケーションで御前崎に滞在中らしい。おなじくワーケーションで滞在中の鈴木絢子さんというピアニストの方とも会う。鴨江アートセンターの稲垣さんという人にも会う。あさおさん(マッスルNTT)と、松本で会って以来数年ぶりの再会を喜ぶ。
イベント終了後、ふきちゃんと近所の店にちょっとだけ飲みに行く、というよりご飯を食べに行く。おでんをつまんだだけだったので空腹だった。ちまたパークに帰ってきたらファントムの隣で柴田さんがなにか制作をしている。木の構造物に餃子をたくさんぶら下げて、そこに透明な塗料のようなものを塗っている。本物の餃子なのか、餃子そっくりの彫刻なのかはわからなかったが、暗い中ぶらさがっている大量の餃子に筆でなにかを施している姿は非常に怪しい。ふきちゃんと解散し、昨日と同じく「かじまちの湯」へ。チェンソーマン5巻も読む。帰ってきても柴田さんは作業をしていた。ファントムに入って寝床を整え、後部座席の窓から柴田さんに「僕は寝ます。おやすみなさい」と挨拶して寝た。久々に日本酒を飲んでちょっと酔っていることが、横になってみてわかった。
11月7日
ファントムで目覚め、タバコが吸える喫茶店が近所にないか、Googleマップで探す。名古屋文化の影響なのか、浜松には全席喫煙可の喫茶店がまだまだ残っている印象。居酒屋もタバコが吸える店が東京に比べて多い気がする。歩いて5~6分のところにある「ルーム112」という喫茶店に行き、モーニングセットを食す。400円でおいしいコーヒー(おいしい)と厚切りバタートーストとゆで卵が付いてくる。バタートーストを食べてコーヒーを飲み、ゆで卵はあとに回してPCを開いて昨日の日記をつける。かたかたやってひと段落し、ゆで卵に着手したところで隣の席のおじさんが笑顔で「そんなに長い文章打って、最初に書いたことわすれちゃわない?」と話しかけてきた。この人は長い文章を書いていると、最初の方が頭から「飛んでしまう」らしい。「打つのも速いしさあ、すごいなあと思って」と、向かいに座ってる知人らしき人に説明していた。「うちの若い衆でさ、パソコン打つのが速いのがいるんだけど、口は一つしかないけど指は十本ある、って言ってたよ」と面白いことを言う。僕はおじさんの知人とふたりで「なるほど〜」と感心した。
ちまたパークに戻って寝床作り再開。まだ蚊が飛んでいるので、隙間という隙間を塞がなくてはならない。今日は主にプチプチシートとガムテープを活用して、昨日までに作り上げた木の板の壁の隙間を埋めていった。ちまたパークに転がっていた壊れたレコードプレイヤーを、「D」の字の真ん中の穴の部分に置いたらうまくはまった。その上には小さいドラえもんも乗せた。
水越さんやミヤマさんや利用者のメンバーなど、何人かがときどきやってきては去っていく。ちまたパークはアルス・ノヴァメンバーの散歩コースになっているらしい。
ミヤマさんが「役に立たない人たちを連れてきました」と言ってたのが面白くて大笑いしてしまった。たしかにみんな芝生に寝転がっていたり、まったく聞き取れないことを延々と呟いていたり、飛び跳ねていたりしているだけで「寝床づくり」の役にはたたなそうだなと思う。「役に立たない人」というのは通常悪口のはずだが、ここでは最大級の褒め言葉に聞こえる。アルス・ノヴァで働いているスタッフの口から、障害のあるメンバーを指して発せられたこの言葉は、すべての人間存在を全肯定するものとして響く。レッツにいると、こういった価値観の揺さぶりが本当におもしろい。
13時過ぎくらいにあきちゃんと久保田翠さんと水越さんが来て一緒にお昼を食べに行く。
ここでの久保田さん話も面白かった。久保田さんは、浜松の「マダム」を集めてみんなで料理をするというイベントを定期的にやっているらしいのだが、みんな料理が上手な人たちなので、手際がよくてパパッと作れちゃうんだけど、「楽しんでやる」ってのが意外と難しいのよ、と言っていた。みんな、出されたお題をさっさと作業分担して作ろうとしてしまうのだが、そうするとその場の人間は「できる人」と「できない人」にわかれてしまう。できないことが悪になってしまう。障害のある者たちと福祉施設を運営している久保田さんとしては、そういった人間の線引きは最も避けたいところなのだろうし、私が「ぜったいに学びのないゼミ」をやったときに考えていたことにもつながる。料理というゴールがあるイベントではそういう雰囲気になりがちだが、そこで、他人とはまったく違う軸で行動している人(アーティストも含む)がいてくれると、雰囲気をパーっと散らしてくれるので、助かるらしい。
一人一人の人間が、やりたいことやできることをすこしずつ、みんなで進めていく、という料理イベントにするためには、参加するひとりひとりが「料理」に対する向き合い方を変えなくてはいけないのだと思う。家で家族のためにパパッとおいしく作るのが料理である、という料理観を崩して、「場」を作る意識を持たなくてはうまくいかない。
久保田さんはまた、スムーズになんの障害もなく仕事ができるという状態はもっともよくない。できるだけ邪魔が入ってほしい、とも言っていた。ほんとうにすごいセリフだとおもう。「あいち」のラーニングチームとして仕事をしていても思う。「これができてないです」と人に指摘したり、「これができてなくてごめんなさい」と謝ったりするのは多少は仕方のないことかもしれないが、すべての人間関係をそういう基準で考えてしまうと、人間の価値は「できる」と「できない」だけで測れることになってしまう。なによりも「できる人」と「できない人」という二項対立ではない状態に持っていくこと。
ランチから戻ってきてから17時くらいまで(パークに遊びにきた親子連れやらちまた公民館の利用者やらに見守られたり、ちょっと手伝ってもらったり、逆に彼らの作業(櫓から伸びるヒモに手作りのタペストリーのようなものをくくりつけていた)を遠巻きに眺めたりしながら)黙々と作業を続け、暗くなってきた頃にいちおう「寝床」は完成した。今夜はここで寝れる。表札もつけた。
たけぶんに工具を返したり、マットや寝袋をファントムから「寝床」に移動させたりしてから、18時前にちまた公民館にいった。今日18時からご飯を食べに行こうとふきちゃんたちと約束していた。公民館にはスタッフのカヌイさんがいた。夕ご飯会は、いまふきちゃんが参加者を募ってるところらしい。カヌイさんは「猛者たちを召集しています」という言い方をしてた。
骨折で入院したメンバーのお見舞いに行きたいというカヌイさんを送り出し、ひとり公民館に残ってNintendo Switchをテレビに繋いでぷよぷよとスマブラをやっていたらふきちゃんがやってきて、二人で韓国料理屋へ向かう。途中、あさおさん(マッスルNTT)と道端で会って合流。三人で「ソウル屋」という、ふきちゃんの行きつけのお店で飲み始める。ふきちゃんはいろんなところで常連になっているようだ。カヌイさん、りっちゃん、ワクイさんも合流し、飲み会は非常に盛り上がった。あさおさんとふきちゃんがよくしゃべる。明日が朝5時起きだというあさおさんのために20時には解散しようと話していたのだが、結局21時すぎに店を出た。帰り道、ふきちゃんが送ってくれた。ふきちゃんの携帯に着信があり、アルス・ノヴァULTRA(重度の障害のある人たちが暮らしているヘルパー事業所。名前がかっこいい)のメンバーのマイさんからだった。どうも、水越さんに渡したいものがあるのだけど水越さんはどこにいるのか、的な問い合わせの電話だったのだけど、もう夜なので水越さんはいない。ふきちゃんはマイさんに根気強く「水越さんは電話でないよ」「明日の朝に会ってから聞いて」と何度も諭していた。しかしマイさんはなかなか折れない。そのやりとりを繰り返しながらふきちゃんが「なんか元気でてきたわ。マイちゃんはまっすぐに気持ちをつたえてくるから」と言っていた。私もそう思った。こんなにまっすぐに人から気持ちを伝えられることは、あまりない。
ちまたパークに戻り、お風呂に行ってチェンソーマンを読んで帰ってきて寝床に入る。寝床は、中で立てるほど天井が高いし、ひろい。畳二畳分ていどだけど、そのほぼすべてが寝床なのでベッドとしては大きい。そして地面が近い。
横になってすぐに寝てしまったが、夜中の2時くらいに人が歌う声で目が覚めた。若い男女のグループで、一人が大声で鼻歌を歌っていて、他の人たちは笑っている。とても平和で幸せな光景が浮かぶが、私の眠りは妨げられた。他にも何度かにぎやかな人の行き来があり、その度に目が覚めた。次は耳栓を用意しようと誓った。さいわい、ちまたパークの敷地に入って私の寝床を外から叩いたりドアを開けようとしてくる人はいなかった。「ラーニングセンターへたち」に夏帆が来て、「夏帆がきてる!」と野田さんに報告しに行くという夢を見た。翌朝7時ごろにむくりと起き上がり、寝床の荷物をファントムに引っ越して、浜松を発った。




