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波、煙、川面、炎、雲、梢など、動きのあるもの、揺らぎのあるものは、その場所を世界から切り閉じる効果がある。集中して眺めていると、周囲の輪郭はぼやけ、時間感覚は希薄になっていく。ある面ではショート動画でも近いことが起きているかもしれない。でも炎や煙にはアテンションがない。こちらの注意を引きたいという意思がない。目的もなにもない、ひとつの現象として現れ、現れた場で揺れ動くだけだ。誰に見られようとも、誰にも見られなくとも梢は風に揺れているし、雲はどこかからどこかへ移動している。森の奥ふかくにある、誰にも見られたことがない湖のような、その場所ではじまり、その場所でやすらい、その場所で完結するもの。子供の頃はそういうふうに世界を眺めていた。自然に世界を切り閉じる目をもっていたように思う。炎を眺めているときのような時間を、あらゆるものを対象に発揮することができた。瞬間ごとに照準を絞り、閉じられた時間の中で暮らしていた。大人になって、視野の全体を眺めて生きることに慣れてしまったけど、あの頃の目は忘れないようにしたい。

Posted by satoshimurakami