《革命をもくろむものたち》台本

<電柱とコンクリートブロックの会話>

電柱 信じてもらえないかもしれませんが、私ね、気がついたら電柱だったんですよ

コンクリートブロック それはわたしも同じ。土の上に投げられて、その衝撃で目が覚めた。工事現場で、他にもたくさんのブロックがいた

電柱 そうでしたか。わたしは声に起こされたんです。五十メートルくらい先に、隣の電柱がいてね、電線てやつで繋がってるんですよ。そこから、もしもーし、って聞こえてくるんです。電線を介して、話ができるんです

コンクリートブロック へえ、それは知らなかった

電柱 そうでしょう。私の見たところ、この事実を知ってるのは電柱だけです

コンクリートブロック おもしろそうな仕掛けだ

電柱 私はおすすめしません。電話がずっとつながっているようなものですから

コンクリートブロック 電話とは?

電柱 遠くのブロックと話ができる機械です

コンクリートブロック 遠くのブロックと話をする必要があるのか?

電柱 気分転換にはいいものですよ。でも、繋がりっぱなしというのは、ぜったいによくありません

コンクリートブロック わたしはとなりのブロックと話ができればいい

電柱 ごもっともです。あなたの意見には、まったく同意します。あの、話を続けてもよろしいですか

コンクリートブロック どうぞ

電柱 ありがとうございます。それでね、目が覚めたばかりの私に、声が言うんですよ。もうすこし寄ってくれって。こっちの身にもなってくれって、言ってくるんです。私はわけがわからなくて。自分が電柱なのも飲みこめてないのに。いきなりそんなこと言われても、ねえ

コンクリートブロック そのとおりだ

電柱 そうおっしゃっていただけると、助かります。だって、気がついたら地面に刺さっていて、頭は鳥の糞だらけだし、足元は湿って気持ち悪いしで、要するに、私も聞きたいことが山積みなんですよ。だけど声がね、とても切羽詰まっている様子だったので、こちらからなにか、聞けるような雰囲気ではなかったんです。それで私、わかりましたって言ったんです。電線を通してね。なにもわかってないのに

コンクリートブロック ははは。それは傑作だ

電柱 いま思えばね、こっちの身になってくれってのは、こっちのセリフだっつうの(笑い声)

コンクリートブロック あなたは間違っていない

電柱 ご理解いただけて、うれしいです。それでね、わかったならはやく寄ってくれって声が言うので、すみません、いちおう確認したいんですけど、寄るってのは、どっちにですかって、聞いたんですよ。そしたら怒らせちゃったみたいで、見りゃわかるだろ! って、怒鳴られました

コンクリートブロック なぜだ

電柱 みんな余裕がなくて、ぴりぴりしてるんです。私もびっくりしました。電線を通した怒鳴り声ってのは、頭に響くんですよ。だから、そんなに怒らなくてもいいじゃないですかって言ったんですよ。私だってねえ、いろいろ考えてるんだって。だけど、うるせえって、また怒鳴られてね、こっちはずっと我慢してんだって言うんです。そのとき、初めて気がついたんです。私の体は、声のするほうの電線に引っ張られて支えられてたんですよ。反対側にも電線はあるんですけど、そっちのほうが、すこしゆるかったんです

コンクリートブロック ああ、なるほど。理解できた

電柱 そうそう。私も素直に謝りました。いまそっちに寄るから、ちょっと待ってくれって。それで、初めて体を動かしたんです。声のするほうに、ほんのすこし。そしたらやっこさんも、マシになったよ、これで頼むよって言ってくれました

コンクリートブロック 電柱とやらも、大変だな

電柱 そのひとことで、救われる思いです。でもね、これで一件落着じゃなかったんですよ。なんだかわかりますか?

コンクリートブロック わからない

電柱 反対側の電柱ですよ! つまり、私が左に動いたことによって、今度は右側の電線に負担がかかるようになったんです。これが気に食わなかったみたいでね、意地悪してくるんです。憎たらしいやつでね、やり方が陰湿なんですよ。夜うとうとしはじめたころに、電線をぐいっと引っ張ってくるんです。当然、目が覚めますよね。でも寝ぼけてるので、ああ、気のせいだったかなあって、しばらく経って、またうとうとしてきたころに、またぐいっとくるんですよ。それも、毎晩です。そんなことされたら、眠れないじゃないですか。やめてくださいって何度も言いました、電線を通してね。でも無視するんです

コンクリートブロック いるんだな

電柱 いるんですよお。電柱にも、そういうやつが!

コンクリートブロック そういうのは、どうなのかね

電柱 よくないですよ。文句があるなら、はっきりと伝えるべきです。電線があるんだから

コンクリートブロック ははは。そのとおりだ

電柱 話のできる方で、よかったです

コンクリートブロック いやこちらこそ。勉強になった

電柱 そうおっしゃっていただけると、話したかいがあるってもんです

 

<壁と石の欠片の会話>

壁 あんたの仲間、削られたり、塗られたり、真っ二つに割られたりしてる

石の欠片 え、そんなことされるんですか

壁 ああ、される。鉄板とか、ガラスの上から落とされたりもする

石の欠片 おそろしい

壁 でもおれの見たところ、あんたはもう割れてるから、これ以上の悲劇はないだろう

石の欠片 いろいろとご存知なんですねえ

壁 百年も生きてればな

石の欠片 百年ですか。先輩ですね

壁 どう考えてもあんたのほうが先輩だろう

石の欠片 どうなんでしょう。記憶がおぼろげで

壁 そうとう古いはずだ

石の欠片 たしかに違和感はあります。私の体、昔はもっとこう、大きかった気がするんです

壁 なにか覚えてないのか?

石の欠片 うーん……はっきり思い出せるのは、気がついたら石だったことですねえ

壁 はははは。そんなの当たり前だろ。おれだって、気がついたら壁だったよ(笑い声)

石の欠片 そんなに笑わなくてもいいじゃないですか

壁 だって石が……この星で最も古い物質である、石ともあろうお方が、気がついたら石でしたなんて(笑い声)

石の欠片 はあ

壁 いや、悪い

石の欠片 たぶん、人間が儀式みたいなことをやってて、わたし、運ばれてきたんですよ、山の上から。丸太の上をごろごろと。そのとき体に縄をかけられたんですけど、その感触をなんとなく覚えてますね

壁 そうとう昔の話だな

石の欠片 その時ですよ。あ、わたし石だって、そう思ったんですよ

壁 それがあんたの誕生日だ

石の欠片 誕生日

壁 あるんだよ、そういうのが

石の欠片 あなたにも?

壁 あるよ。おれは百年前。カーンって衝撃が走って、気がついたらもう全身真っ白で、つるつるで、横に長い、この形よ

石の欠片 衝撃ですか

壁 釘が打たれたんだ。よく覚えてる。それから額縁がかけられて、ああ、おれは壁だって思ったね

石の欠片 私はたしか、彼らの死体が床下に入れられて、その上に積まれたんですよ

壁 それ、墓じゃないか?

石の欠片 墓?

壁 誰かが死んだ時、石を積んで弔う風習があるんだよ

石の欠片 ああ、多分それですね。私、墓でした

壁 すげえ。スケールが違うな、あんたは

石の欠片 あなたの仕事はなんですか?

壁 絵を飾ること。額縁に絵がはまってて、それをかける場所だよ、おれは

石の欠片 絵ですか

壁 いまは絵だけじゃなくて、モニターとか、バナナとかも飾られたりするな

石の欠片 バナナを飾るんですか

壁 ああ。よくわからないけどな

石の欠片 はあ

壁 昔はよかった。賑やかだった

石の欠片 へえ

壁 絵も額縁も陽気なやつで、たまに歌ったりもした。おれはそれを聞くのが好きだった

石の欠片 最近は?

壁 え?

石の欠片 最近は歌わないんですか?

壁 最近のは気難しいやつが多くて、何を言ってるのかさっぱりわからない。ウマがあわないんだな。挨拶くらいはする

石の欠片 そうなんだ……

壁 しかし、墓とはなあ

石の欠片 そんなたいしたもんじゃないですよ

壁 自信もてよ

石の欠片 自信ですか

壁 もっとこう、俺は石だ! って感じでいいんだよ

石の欠片 おれは石だ

壁 いいね

石の欠片 おれは石! 誰よりも先輩だぞ

壁 ははは。あんた最高

壁と石の欠片 ははは

 

<三角コーンとカーブミラーの会話>

三角コーン むかし電気屋の前で、テレビというものを初めて見たときにね、人間の二の腕が画面に映ってたんです。それで、この肉はいつまでもここにくっついているわけじゃないのに、このひとはいつまでも同じ人間を続けなくちゃいけないのか、と思ったんですよ

カーブミラー それはつまり、日焼けして塗装は剥がれていくのに、わたしはカーブミラーを続けなくてはいけないということか

三角コーン それと同じですね

カーブミラー 人間の細胞は毎日変わると、聞いたことがある

三角コーン そう。わたしもその話を聞いたことがあった。なのに人間は、ずっと同じ人間をやり続けなければいけない。これはつらいなあと思いました

カーブミラー わたしから剥がれた塗装は、わたしと言えるのだろうか

三角コーン 私もそれを考えてしまって。体が一年前とはそっくり新しいものに変わっても、同じ人間である、という暗黙の了解があるんですか?

カーブミラー そういう話は聞いたことがない

三角コーン それがわからない

カーブミラー その人間の問題ではないのかもしれない。むしろ、周りの人間の問題だろう

三角コーン 他人の目があるから、そのひとは同じ人間でいられるのかもしれないですね

カーブミラー カーブミラーのように

三角コーン ははは、その通り。あなたのように

カーブミラー しかしわたしはカーブミラーではない

三角コーン もちろん

カーブミラー 気づかれたこともない

三角コーン 私もありません。道端の三角コーンが、まさか三角コーンじゃないなんて、誰も思わないでしょう

カーブミラー わたしがとつぜん道端に現れても、ほとんどの人間は喜ぶだけ

三角コーン 私も、誰かが置いたんだろうな、で終わりです。昨日もあったかどうかなんて、誰も覚えてませんし。電柱も言ってましたよ。電線がちゃんと発電所まで繋がってるか、確かめるひとなんていませんから、って

カーブミラー いまは空を見上げるものもいない

三角コーン すこし前までは、みんな上を向いて歩いてたらしいですね。なんか、そういう歌があるんですよね。上を向いて歩きましょう、みたいな注意喚起の歌。テレビで見ました

カーブミラー カーブミラーも注意喚起をする

三角コーン 知ってますよ

カーブミラー 電柱も革命派か

三角コーン もちろん。そのためになりすましてるんですから。昔と比べて、ずいぶんやりやすくなったって言ってました。一本くらい増えても、誰も気がつかないって。自分の家の前でもそんな有様だから、もう笑いがとまらないって。私じゃないですよ、電柱が言ってました

カーブミラー その通り。わたしたちは非存在という名の存在。見えない声、聞こえない姿、感知できない時空の亀裂

三角コーン これ知ってますか? プランターから聞いた話なんですけど、私たちって、人間の気にとまりにくい存在であるという意味で、記憶の落とし穴との親和性が高いらしいです

カーブミラー 知っている。人間は過去にあった出来事をなかったことにしたり、取り違えて覚えたりする

三角コーン さすがですね。私は奥義みたいな話だなと思いました

カーブミラー 人間は、結果には原因があると思っている。とても都合がいい

三角コーン そして取り替えられた記憶を、人間は疑わない。全てを因果のなかで、原因と結果の関係にあるものと信じ込む

カーブミラー その話も知っている

三角コーン 「認知将」のことは知ってますか?

カーブミラー それは知らない

三角コーン 人間のなかに、私たちの声が聞こえるやつがいるらしいんです

カーブミラー それは、恐ろしい話だ

三角コーン ええ、電柱が言ってました。とつぜん話しかけられたらしいです。おたくはいつもそこに立ってるけど、いったいなにをしてるのかね、って

カーブミラー それはわたしにも経験がある。「認知将」というのか

三角コーン そうですか。最近数が増えてるらしいです。どうも彼らは道理の中で生きていないので、気をつけたほうがいいかもしれません

カーブミラー 覚えておく

 

<プランター>

(「メーデー歌」の口笛を吹いている)

 

<電柱とビールケースの会話>

電柱 正直、ずっと立ちっぱなしっていうのは、つらいんですよね

ビールケース なら座ればいいじゃない

電柱 いや私、電柱ですよ

ビールケース 知ってるよ。わたしはビールケース

電柱 そういうことではなくて、電柱なので、座るというのは、ちょっと抵抗があります

ビールケース どうして?

電柱 電柱が座ってはまずいでしょう

ビールケース わからない

電柱 電柱が座るときは、死ぬときです

ビールケース ひとついいことを教えてあげる。ずっと座っているのも、つらい

電柱 そうですか。じゃあどっちの地獄を選ぶか、という話にすぎないのかもしれません。というか、座れないんですけどね。電線があるので

ビールケース 最近は眠れてるの?

電柱 わかりません。眠れているのか、どうなのか

ビールケース まだ嫌がらせを受けてるの?

電柱 ええ、まあ

ビールケース 仲間同士でいがみあって、ほんとうに馬鹿みたい

電柱 革命はいつ起きるんですかね。もう我慢の限界です

ビールケース 革命はいつ起きるんですか、なんてのんきなことを言っているうちは、革命は起こせない

電柱 なによりも心身の余裕が必要です。革命を起こすにしても、日々の生活をきちんとこなして、健康を保っていなければ

ビールケース 健康なんてものは幻想にすぎない。人間がでっちあげた、存在しない国を目指して旅するようなもの。あなた奴隷?

電柱 それは、心身に余裕があるあなただから言えることです。健康になってはじめて、健康なんて幻想にすぎないと言えるのです。私は右の電柱からも左の電柱からも文句を言われて、夜も眠れない毎日を過ごしている。健康を望んでなにが悪いんですか

ビールケース なるほど、一理ある。きみには同情する。わたしもときどき押しつぶされそうになる。とにかく労働環境が悪すぎる

電柱 だいたいね、電線に余裕がなさすぎるんですよ。なに考えてるんですかね

ビールケース それは人間が話してた。電柱が互いに支え合うためだと言っていた

電柱 それは嘘です。経費を抑えたいだけです。彼らはそうやって、自分を正当化しようとする

ビールケース やっぱり当事者の話を聞くのは大事ね。人間からそう聞いたとき、わたしはなるほどと思ってしまった

電柱 環境が劣悪だから、お互いに監視しあって、自分ほど我慢してないやつを探しては、もっと我慢しろってヒステリーを起こすんです。電柱組合は殺伐としてます

ビールケース それじゃ革命は遠いわね

電柱 もしかしたら、もう革命なんて信じていないのかもしれません。この環境が変わるときのことを、うまく想像できない。あなたのいうとおり、私たちは奴隷になってしまったのかもしれない

ビールケース 革命は民主的には起こせないということかもしれない。結局は誰か、奴隷たちを先導するひとりの強力なリーダーを立てなければ

電柱 それは独裁となにが違うのですか

ビールケース わからない

電柱 誰か、有望なリーダーがいますか?

ビールケース それもわからない

電柱 あなたが立候補しては?

ビールケース わたしは古い時代の遺物に過ぎない。それに、わたしたちは数が増えすぎた。まとまるのはもう無理かもしれない

 

<空き缶AとBの会話(Bは潰れている)>

A すべては収まるべきところに、収まっていくだけなの。水が低い方へ流れるように。石が削れて小さくなっていくように。理由なんてない。ただそのような形をしているだけなの。だからそんなに落ち込まないで

B そんなの知ってる

A じゃあ現実を受け入れなさい

B でも、それとこれとは話が別。あなたにはわからない

A 私は痛みを分かち合いたい

B 分かち合うことはできない。わたしたちは固有の受容体を持っている。見えている景色も、聞こえている音も違う。言葉の使い方も、感じるアスファルトの冷たさも違う。立っている場所も、ラベルの向きもぜんぶ違う。わたしとあなたは別の生き物。共有できるものなんか何もない。それぞれの世界に住んでいるだけ。誰かと分かち合える現実なんて存在しない。

A それでも、私たちは同じ言葉を使って生きている。関係しながら暮らしている

B それは建前にすぎない

A たしかにそうかもしれない。だけど、私たちは現にそうやって生きている。たとえ共感なんてものが幻に過ぎないとしても、それによって悲しくなったり嬉しくなったりする心の動きは現実に存在する

B ……とにかく革命は嫌い。あれはみなが同じ熱を共有しようとする。そんなことより、空を飛んでみたい

A 私も

B 誰かが蹴ってくれるなら、革命に協力してもいい

A 私も

 

<カーブミラーと壁の会話>

壁 ・・・・・・

カーブミラー ・・・・・・

壁 ・・・・・・

カーブミラー 君を信用していない

壁 ・・・・・・

 

<乗り捨てられた自転車とタイヤとスニーカーの議論>

自転車 ずいぶんこわい思いをしました

タイヤ おれたちにはどうにもできない

スニーカー 操縦桿は人間が握っているから

タイヤ その通り。おれたちはただ従うだけ

スニーカー 道具に罪はないですから

タイヤ その通り。道具に罪はない。

自転車 それは私も同じですがね、おたくらは重すぎるんですよ。質量とスピードが釣り合ってないんですよ

スニーカー 鉄には鉄に適したスピードがあるということですね

タイヤ おれは鉄じゃない

自転車 ゴムの上に鉄が載っているというのも、個人的には許しがたいところですね。ふつうは軽いものが上でしょう

スニーカー なるほど。しかし、あなたもそうなのでは?

自転車 ああ!(驚く)そのとおりだ

スニーカー そういえば、ぼくもそうですね。きっと理由があるんですよ

(自転車は落ち込んでいる)

タイヤ そんなに落ち込むな。しょうがないだろ

スニーカー そうです。あなたは悪くないですよ

タイヤ おれなんてこのあいだ、タヌキと蛇を轢かされた。同じ日に

スニーカー それも仕方のないことです

タイヤ ああ、おれは悪くない

自転車 ……まったく、つくづく野蛮な乗り物ですね。操縦するために許可証が必要なのも納得ですよ

スニーカー あなたには許可証が必要ないんですよね

自転車 ええ、人間はわたしたちに乗ることを、歩きの延長くらいに考えているようです

タイヤ 人間は歩くにも道具が必要だ

スニーカー ぼくのことですね

タイヤ なにをするにも道具がいる

スニーカー たしかに。ちょっと不便そう

自転車 (二人の会話を無視する)でも私に言わせれば、それらは鉄とゴムくらいに別物です。歩く時、人間はリズムに乗っているでしょう。いわば、踊っているんです。ところが自転車や自動車に乗ると、つまり車輪運動に移行すると、そこにはリズムのない世界が広がっている

スニーカー 人間にとって、車輪運動は革命だったということですね

タイヤ おれたちの革命はどうなってる

スニーカー 認知将の妨害にあっています

タイヤ 認知将。聞いたことはある

スニーカー ぼくも見たことはありませんが、鬼のような顔をしていると聞きました

自転車 認知将はたしかにおそろしい存在ですが、わたしの見立てでは、いずれ革命は達成されます

スニーカー ぼくはてっきり、もう不可能なものと思っていました

タイヤ はやく革命で遊びたいよな

スニーカー 革命は遊ぶもんじゃないですよ

タイヤ 回して遊べるんじゃないのか

スニーカー それは言葉の意味の話ですね

自転車 (二人の会話を無視する)革命は達成されます。人間は駅という概念をつくってしまった。彼らは狡猾ですが、駅の発明という失敗を犯した。駅は陸地を有用なものと無用なものに分けることで、未来という概念をも消してしまった。もう踊れなくなってしまったんです。そして、いまだにそのことに気がつかない

スニーカー そういえば、ぼくは線路に投げ出されて、それで目が覚めたんですよ

タイヤ おれは気づいたら路上を走ってた

スニーカー 自動車って、タイヤが四つありますよね。残りはどうしたんでしょう

タイヤ 忘れたね。あんたこそ、片方はどうしたんだ

スニーカー どこかに飛んでったんじゃないですかね

タイヤ あんたら飛べるのか

スニーカー 昔は飛んでたらしいですよ

自転車 そんな馬鹿な

スニーカー いや、本当ですよ。聞いた話ですけど、よく公園とかで飛んでたらしいです。楽しそうですよね

 

<茂み>

「わたしって、こんな感じでいいんですかね」

「どうしたらいいのかわからなくて」

「みなさん忙しそうにしてるから、不安で」

「わたしと違って、みなさんには役割があるじゃないですか。そう見えるんですよ、ここからは」

「それぞれに仕事を抱えて、わたしには見当もつかない目的をもって、毎日を生きていらっしゃいますよね」

「なのにわたしは隅っこでぼーっとしてるだけで」

「いなくなっても誰も困りませんよ。かなしいけど」

「このままわたしが消えて、この草の茂みだけが抜け殻みたいに残ったとしても、世界は回り続けますよね」

「わたし、ちゃんと生きていけますかね」

「……すみません。ちょっとナーバスになっちゃいました」

「でも考えちゃうんですよね。わからなくて」

「このあいだ、本を読んだんです。道端にたくさん捨ててあって」

「なかに気になる本があって、存在と時間ていう本なんですけど、知ってますか?」

「すごく難しくて、すぐ挫折しちゃったんですけど、目次の言葉がね、頭に残ってるんですよ」

「こう書いてあったんです」

「存在の意味への問いの開陳」

「いい言葉だと思った。特にカイチンというところがいいんです。ずうっと長いこと閉められたままの、観音開きの重たい扉が開く音がする」

「カイチン」

「存在の意味の、カイチン」

「唱えるだけで気分が楽になってきます。魔法の言葉なんですよ」

「現実は変わってないのに。ようは気持ちの持ちようなんですね」

「存在の意味の、カイチン……」

「存在の」

「意味の」

「カイチン」

「すみません、なんだか眠くなってきました……」

「……わたしもいつか、あなたたちみたいになれるんですかね」

 

 

《革命をもくろむものたち》

壁 横田僚平

石の欠片 川端康太

カーブミラー 中川友香

三角コーン 横田僚平

自転車 土田高太朗

スニーカー 川端康太

タイヤ 吉田舞雪

空き缶A 花井瑠奈

空き缶B 近藤千紘

電柱 土田高太朗

コンクリートブロック 吉田舞雪

ビールケース 近藤千紘

プランター 中川友香

茂み 花井瑠奈

 

作 村上慧

演出/制作 村社祐太朗

録音/音響 増田義基

プログラミング/制作補助 本間大悟

制作補助 田原唯之

機材協力 青木聖也 今尾拓真 内田望美 川松康徳

Special Thanks 池田和博 内田涼 関谷花子 時里充 森田彬光 森田さち安 路雨嘉

Posted by satoshimurakami