快晴。相変わらず寒い。まだ喉が痛い。ぶり返した風邪は長引く。だけど喉以外はだいぶ回復した。

午後から椿昇さんに会いに京都造形大に行った。美術工芸科の研究室にはレムコールハースのリサーチ本とか、建築や都市に関する本がたくさんあって、本棚を見てたら椿さんが
「うちはシステム工学を教えてるから建築リサーチ系が多いねん」
って言った。現代美術は、システムを作ればまわりはじめる。いくら体当たりでやってもシステムをまわせないとうまくいかない。宮島さんがデジタルカウンターをみつけ、名和さんがピクセルを見つけたように。それをまわせば食っていける。だから建築系の本を置いてるらしい。僕の育った環境と全然違う。システムをまわすってことがどういうことか、最近薄々感じてはいたけれどその参考にするのにOMAの「S,M,L,XL」とかを使うなんて目から鱗だった。というか、大学で現代美術を教えるってことはつまりこういうことなのかと、それは数分間の会話だったけど大変な刺激で、これはもう敵わないのでは、と思ってしまった。
研究室ではあるプロジェクトのミーティングが行われてて、そこには学生もまじってる。椿さん曰く、学生には徹底的に現場をやらせるらしい。なんか僕も楽しそうだから会話に混じってたらプロジェクトに乗ることになった。
その後ウルトラファクトリーっていう工房に連れて行ってもらって、そこはヤノベケンジさんの制作中の作品などがあって、なんだか訳が分からないままスタッフの人が案内してくれた。名和さんとかヤノベさんとかやなぎみわさんとかのプロジェクトを、学生も混ざりながら進めるための工房で、いくつかのものが同時進行で動いていて、そこにいるだけでその空気の熱量にくらくらした。大学には1,2時間しかいなかったけど刺激をもらいまくって、自分の中の確信を勝手に固めて出ていった。

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そのあと大阪に戻って中津っていうところにある「シカク」っていうスペースで原田ちあきさん企画の展示を見てきた。原田さんが、ツイッター上で作品を発表している絵描きや漫画家の人たちに声をかけて、Tシャツやトートバッグに絵を描いてもらったものを展示販売していて、結構売れてるみたいだった。原田さんは「一緒に死にたい人を見つたい」みたいなことを言ってた。すごい言い回しだ。彼女の話を聞いた感じでは、それは心中したいとかそういう意味じゃなくて、「自分たちの支持層を見つける」ことに注力して、お客さんと一緒に成長していきたいっていうことだと思うんだけど、考えてみると大学で美術を教え込まれた人って、(あるかどうかもイマイチわからない)アートワールドの中でいかに自分をたてるか、それに失敗したらもう絵で食ったりするの無理、みたいな0か100かみたいな勝負を無意識にしていて、それはもしかしたらもっと大きな未発掘のマーケットを無視していることになるんじゃないかと思った。椿さんは美術市場をひろげるために卒業制作展で作品の売買ができるようにしてカタログをつくったり、美術作品をリースするプロジェクトをやったりして、同時に経済界にも働きかけて、美術への投資を促すようなことをしているけれど、それはもしかしたら原田さんがやってることとすごく近いのでは、なんて思ったりした。

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ふたつの場所が対照的でくらくらしながら帰ってきた。明日は、藤巻さんが友達を何人か呼んで「たこ焼きパーティー」をするらしい。僕も朝から手伝うらしい。

今日は朝からずっと雨が降っていて、昨日と同じくらい寒い。夜には雨があがってもうすぐ満月の月が見えている。このあたりは空港が近いので飛行機が頻繁に低い高度を飛んでいく。

ここ7日くらい、子供(というか糞ガキ)にいじめられたり何かに憑かれて神経衰弱になったり、人と会ったり熱出して寝込んでたりして、絵はなんとか描きつつも、日記を一切描く気になれなかった。けどすこしずつ持ち直してきたのでまとめて書く。なかなか色々あった。体調が悪くなると自分のことを俯瞰できなくなって、嫌な事があるとただひたすら落ち込む。絵は頭がぼーっとしている状態でも描けるけど、日記を書くのは無理だった。

まず28日に奈良の松村さんの家から大阪市浪速区の友達のアパートに向けて家を移動させた。奈良と大阪のあいだには山がいくつかあって、そこは紅葉がとても奇麗で、そのための観光客が何人もいたけど、僕は「紅葉を見に出かけてそれを見るのとは別種類の感動」を自分がしているような気がした。それは僕が冬を越すために南へ向かっている最中だからだと思った。たしか茨城あたりで、葉っぱが青々として奇麗だな、と思ったのを覚えてる。あのとき僕は夏を迎えるために北へ向かっていた。あの葉っぱもきっともう役目を終えようとして、今ごろは赤くなってるんだろうと思う。木々が、冬を越す準備をしてる。僕も冬を越そうと南に向かっている。「冬を越す」っていうことが、こんなに大きなイベントに感じられるのは初めての経験だ。ユニクロでヒートテックを何枚買えばいいのかな、とか、鹿児島くらいまで行けば少しはマシかな、とか。平均気温を調べたり降雪量を調べたりする。全ては無事に冬を越すために。紅葉が何故奇麗なのかって、単純に色が鮮やかっていう事以上に、生命の終わりとか時間の移ろいとかを重ねて見るからだと思う。生命体としての木々が運動しているのを感じるから美しいのだと思う。

でも紅葉が美しいとか思う余裕はすぐになくなった。「奈良と大阪は近い」なんて思ってけど、とんでもない誤り。直線距離は近いけれど、あいだに鬼のような坂道がずーっと続いて、もう笑っちゃうくらいの急勾配ばっかり。すぐ汗だくになって足にもマメができた。車もすごい音を立てながらきつそうに坂をのぼっていて、歩いてる人は他に見当たらなかった。くらがりとうげ、とよばれる坂道を登りきったあたりで大阪府に入る。そっからは、笑っちゃうくらい急勾配な下り坂がつづく。足を滑らせたらたぶんアウトなやつ。

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疲れすぎて、途中にあった公園で昼寝した。そんでようやく山道を超えて、東大阪市の街中を歩いてたら今度は自転車にのった小学5年くらいのガキ集団が後ろから寄ってきて、50センチくらいある木の枝(太め)を僕に向かっていきなり投げつけてきて、びっくりしてふり返ったら
「きしょいねんハゲ!」
と罵声を浴びせてきた。かなり腹が立ったけど、もう疲れてるし家を壊されてもたまらんので「孫の代まで呪われろ」と思いながらさっさと立ち去った。

その10分後くらいに、また別のガキ集団が自転車で近づいてきて、家を殴ってきた。殴ったらすぐ自転車で逃げるからタチが悪い。大阪こわすぎる。途中で見かけた選挙ポスターに「大阪に活気を」とか書いてあって「これ以上活気とかいらんから」と、本気で思った。
そんな感じでふらふらと浪速区の友達の家に辿りついて、夜はそこで寝かせてもらったんだけど、今度はそのアパートが事故物件で、昔ひどい殺人事件があったらしい。20141204-193343.jpg
「ちょうど家をおいてる駐輪場のあたりが現場だった」と言われて「もう勘弁してくれ」と思った。そのせいか翌朝から急に体調が悪くなって、ファミレスでぼーっとしていた。もう1日そのアパートに泊めさせてもらう予定だったけど、この体調悪化はあの場所のせいだと思い、急遽家を動かす事にした。藤巻さんていう淀川区に住んでる人がツイッターで「家置けます」って連絡をくれていたので、藤巻さんと連絡を取ってそこに向かった。9キロくらいの道だったけどもう満身創痍で、しかもその途中、何故か草刈り機で草刈りしてるおっちゃんの手元から小石がすごいスピードで首に飛んできたりして神経もすり減らされた。絶対に何かに憑かれている。岩手のトンネルでも同じように何かに憑かれて体調が悪くなったことがあったなあと思い出したりした。
藤巻さんの家は淀川区にあるビルだった。1階のテナント部分があいているのでそこは好きに使ってくれていいと言ってくれた。僕があまりに疲れていたので、藤巻さんとお母さんが家にあげてくれて、晩ご飯を一緒に食べたあとホットカーペットの上で寝かしてくれた。これが救いになった。夜の時点では37.9度の熱があったけど、朝までに平熱に戻った。
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平熱に戻った30日の午後から大阪在住のアーティストの大歳芽里さんと合流して、大阪の此花地区を案内してもらった。もともと梅香堂というギャラリーで、今はASYLという名前に変わったスペースで下道基行さんが展示していて、下道さんとも少しお話しできた。武蔵美の卒業生だから先輩にあたる。下道さんの話を聞けば聞くほど、興味の対象が僕と近いところにあるような気がした。下道さんは「写真家」っていう感じじゃない。「写真を使って」作品をつくってるという感じがする。有名な鳥居の作品群について

「実際は(鳥居を探すのに)すごい距離を移動しているんだけど、写真でならべるとその距離を飛ばしてみせることができる。展示する枚数は、3枚から5枚が一番縛りが強くて、それ以上になると逆に解釈がひろがっていく」
って話していた。写真を何枚か展示することによって、その先にあるものを見せようとしてる。その考え方は、いま僕が考えている展示プランにも通じるものがあって、勝手に仲間だと思った。また下道さんの活動を考えるためには「生活」っていうキーワードが欠かせないような気がする。そこにも勝手ながらシンパシーを感じる。
ASYLの他にThe Three Konohanaっていうギャラリーも行ってみた。ここはASYLとはだいぶ雰囲気が違う。山中さんていう面白い人がギャラリーをやってる。そこでは小松原君っていう僕と同い年の作家が展示していて、彼とも話した。
展示をみたりトークをきいたりして、すこし消耗した。夜は芽里さんと飲みにでかけて、彼女の「良い女」っぷりにより隣の席のおじちゃん2人組から日本酒を奢ってもらった。その後芽里さんの友達のメガネヤっていう古本屋さんに押し掛けて泊まらせてもらった。この古本屋も面白くて、普通のマンションの1室を古本屋にしている。外からは全く古本屋だとは分からない。オーナーの市川くんと芽里さんと3人で話すのは、朝まで起きていたいくらい面白かったけど、体調がまた悪化してきたので早めに寝た。

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そんで12月1日の昼に藤巻さんの家に戻ってきた。その日の夜、僕のことをテレビで見て刺激を受け、学校の自由研究で自分の家をつくったという小学2年生の男の子とその両親が訪ねてきた。
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なんか鳥がのってる

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藤巻さんの職場の屋上

翌朝は藤巻さんの職場まで忘れ物を届けにいったり、de sign deというミュージアムで建築の展示を見たり。この展示がまたなかなか良くて、建築のゾーニングを考える、あの懐かしい面白さを思い出した。大学生のときはこの面白さだけが設計をやるモチベーションになってた。展示を見ることによってまた消耗して、ふらふらと家に帰ってきてまた寝た。

3日の朝に喉の痛みが悪化して、体が明らかに昨日よりだるくなっているので、これはもう病院だと思って病院に行って薬をもらってきた。薬はすぐに効いてくれた。夜には「味園ビル」という大阪No1ディープスポットに、藤巻さんとその友人と3人で飲みに出かけた。
で、今日はもうずっとほとんどなにもせずに寝ている。いまも自分の家のなかでごろごろしながら日記を書いている。だいぶ体調も戻ってきた。明日は椿昇さんに会いに急遽京都造形大にいくことになった。

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晴れ。時々曇り。今日も朝から割と暖かいけれど、暗峠を超えて大阪に入ったあたりから気温が数度上がったような気がする。

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上着を着てると暑いくらい。晴れ時々曇り。

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昼までは晴れてたけど夜になって雨。相変わらず暖かい

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くもり時々小雨。午後から2月並みの気温になると聞いていたけどそんなでもない。

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快晴。ちょっと雲が浮いてる。とても寒い。というか昨日までが暖かすぎた。

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今日も寒い。昨日と同じような気候。雲は少しあるけど晴れている。夕方から急に曇ってきて、夜には雨が降ってきた。

松村家には9ヶ月の赤ちゃんがいるんだけど、だっこしてる時にお母さんがよく体を上下にゆらしてる。そうすると落ち着くらしい。赤ちゃんをあやすのにもリズムが要るのだ。ゆりかごとかもそう だ。そういう動作も全て荒川修作やシャーマニズムと繋がっているんだと思う。

昨晩まで降っていた雨も上がって朝から晴れている。昨日よりちょっと寒いかも。

いま大和郡山のイオンモールのフードコートにいる。お店やゲームセンターの音やBGMや人の話し 声がまざりあっていてとてもうるさい。さっきインターステラーっていう映画を観た。ツイッターや フェイスブックでみんなが良い良いと言うので気になって、平城宮跡も東大寺も行かずに、思い切っ て郡山のイオンモールの映画館に来た。こういうのは今だ!っていう時に観ないといけないんだ。そしてその選択は正解だった。やばい体験ができた。映画が終わった直後、自分の肉体の不自由さが憎 くなる。さっきまであんなにあちこち行ってたのに、そういえばここは映画館で、3次元の世界で、 それが悲しくて憎い。イオンモールは大盛況だけど、インターステラーはガラガラでもったいない。

朝から小雨。でもすぐにでも止みそうな感じ。気温もそんなに低くない。

だいきくんが3年間に僕とベイブレードをやったことを覚えていて、また一緒にやりたいようだったので、ちょっと一緒にやった。なんか親戚のおじちゃんみたいな気持ちになった。最後は越智さんも 加わって3人でバトルして、だいきくんが1位で僕が2位で越智さんが3位という結果。

今日は僕の家を奈良市の西大寺付近に住んでる松村さんていう人の家に移動させる。メールで僕に 「うちの敷地使っていいですよ」って言ってくれた人。越智さんのところを出発する前に東京のTBS の人たちが取材に来た。朝のニュースバラエティ番組らしい。今回のディレクターは僕の気持ちをか なり汲み取ってくれてやりやすかった。彼は風邪を引いていて冷えピタを貼りながら撮影を指示して いた。熱があるのを表に出さずに仕事をしていて凄いけど、僕にうつさないでくれよと思った。

松村さんの家は松村夫妻と小さな子供が3人いて、全員男の子。もともとモデルハウスだった家に住 んでる。奥さんは、あれこれ言ってくる男の子3人を同時にさばきながら、ご飯の準備をしたりあれ これ用意したり、色々と同時に気を回している。それに加えて数日前までタイ人の学生をホームステ イさせていたらしい。すごい。頭の構造が変わりそうだ。
松村夫妻が 「よかったらもう一泊していってください。平城宮跡とか東大寺とか行けますよ」 といってくれたので、明日もここに泊まることになる。

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朝から雨。明け方はかなり強く降っていたけどお昼前にはだいぶ弱まった。夕方にかけてだんだん止んできた。気温はたぶん昨日とあんまりかわらない。

今日は、3年前の飛鳥アートプロジェクトで知り合った写真家の越智さん一家に会うために、家を大和郡山市から桜井市に移動させる。まさきくんとだいきくんという男の子が二人いて、3年前に行った時は一緒にベイブレードをやって、長芋をふんだんに使ったお好み焼きを食べさせてもらった覚えがある。久々の越智家は、低い円卓から高い四角のテーブルに変わってたりとかしたけど二人は相変わらずベイブレードをやってて、夜もお好み焼きだった。だいきくんがめちゃ元気で、家の空気をつくってる感じも3年前と変わらずで、ただ今日初めて見せてもらっただいきくんの絵はすっごく良かった。

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だいちゃんの絵

昨日より少し気温は下がったけれど、まだまだ暖かい日。雲もあるけどだいたい晴れている。日差しにいると春のような気持ちになる。

午前中は奈良県立図書館に行って、志村ふくみさんのエッセイと「移動する聖地」展のカタログを読んだ。休日ってこともあって人がたくさんいた。それぞれが思い思いに過ごせる、とっても良い図書 館。貸し出しのパソコン席には若い人から年配の人までたくさんいて、何かの論文を読んでる人や、 スポーツニュースを見てる人や、為替か株の棒グラフを睨んでる人もいれば、麻雀をやってる人もい た。

今日は大和郡山市まで家を動かした。昨日一緒にご飯を食べた人がマンションに住んでいて、そこの 玄関の前に家を置かせてもらった。玄関の前を敷地にするの初めてだ。マンションの最初の入り口の ドアが開く鍵(部屋の鍵とは別)を貸してくれた。鍵を使ってマンションのドアをあけて自分の家に 帰ってくるのは、なんか奇妙な感じだ。このマンションはロビーのところに何故か共用のトイレと洗 面台があって不自由しない。

夜、東北の仮設住宅に住んでる人から電話がきた。旦那さんを亡くしたばかりの人。突然だったらし い。今は仮設に一人で住んでるはずだ。
「そうそうそう。突然だった。びっくりした。でもね、色んな人が集まってくれて、あったかいお葬式だった。」
って、いつもの調子で話してくれた。
「来年は、仮設を出て公営住宅のほうに引っ越してるから、遊びにきてな。部屋が余ってるから。」
「また来年そのへん通りますよ。行きますから元気にしててくださいよ」
「元気元気。ありがとう。」
と言って電話をきった。そこを通る事が仕事だと思った。「近くを通りかかったんで」と言って、そこを訪ねるのが僕の仕事だ。

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寒くないの?とか、ご飯どうしてるの?お風呂はどうしてるの?トイレどうしてるの?とか、そういう質問はそっちゅうくるけど,聞かれてもこっちは「いや、ふつうに生活してるだけです」っていうふうに答えるしかない。「寒くないの?」と聞かれても「寒くないです」か「寒いですけど生きてます」としか答えられない。「重くないの?」もそうだ。「そりゃあ重いですよ」としか答えられない。だって家持ち歩いてるんだから。公衆トイレやコンビニのトイレを使った事がないひとなんているのか。スーパーで弁当を買ったことない人なんているのか。銭湯にいったことない人や友達のお風 呂を借りた事のない人なんているのか。
質問の内容はそのまま鏡のように、その人の生きかたや社会のありかたをあらわしている。荒川修作 はそれを「建築的身体」って呼んだんだ。荒川は偉大だな。彼の
「どのくらい間違ってるか?"徹底的に"間違ってるんだよ、人間の生き方は」
っていうセリフは100%正しい。彼が死んだなんて認めない。

ICCの「移動する聖地」展のカタログに収録されていた港千尋さんの文章をたまたま奈良県立図書館 で読んで、昨日に引き続いてもう1つ大切なリンクを得た。それは「大いなる移動の予感」というタ イトルの文章だった。
「日本全体を自分の身体として感じる」ことはシャーマニズムと密に関係していた。そしてそれは多分荒川修作とも繋がっている。
シャーマンが太鼓のリズムとダンスとボディペインティングによってエクスタシー に到達し、身体を動かさずに意識を彼方まで飛ばす儀式。これは身体の変身の能力。 いつかの日記に書いたあの晴れた日、家を温泉の駐車場に置いて、来た道を戻りながら散歩をしてい た日。ローリングストーンズを聞きながら歩いていたら(酔っぱらっていたのもあるけど)、歩行の上下のリズムにあわせて、意識がどんどん遠くに飛んでいって「土地とダンスをしている感覚」があ った。あのとき僕は、本当にどこまでも飛んでいけそうな気がした。あれはシャーマンのエクスタシ ーとほとんど同じものだと思う。 さらに、ラスコーやアルタミラの洞窟絵画がシャーマニズム的な要素を持っていることは19世紀から指摘されていたらしい。暗い洞窟の中で、その硬い岩の向こう側に「何か」を見て絵にしようとし た当時の人々の気持ちがなんとなく理解できる。
荒川修作さんの
「車道は広いのに、歩道はこんなに狭い。これは間違っている。徹底的に間違ってるんだよ人間の生き方は」
っていう言葉も、今なら完全に100パーセント理解できる。あれは歩行による上下のリズムが身体に与える影響がどれほど大きいかを言っているんだ。車の移動によるリズムのない平行移動が身体に
及ぼす悪影響、ひいては社会に及ぼす悪影響のことを言ってるんだ。
この公共事業のありかたとかバリアフリー化を正義とする傾向は身体をなめているんだ。それは人間を気づかないうちに殺していくと思う。
僕はクラブとかライブハウスで踊るのも大好きだし、夜行バスで寝る時、もっともリラックスできるからだの置き方を見つけるのも得意だと思う。いつか書いたステートメントでほぼ無意識的に「変態」っていう言葉を使ったのもちゃんと繋がっているんだ。僕は身体の問題を理解していた。いまそれがようやく分かっ
た。

今日は暖かい。明け方もそんなに冷えなかった。日差しもあって、昨日に引き続き春みたいな陽気。家は動かさなかった。

大和郡山っていうところに住んでる人からメールがきて、奈良駅で待ち合わせた。僕の日記を読んで る人で「近くを通ったら敷地使ってください」って言ってくれた人。一緒にご飯を食べて、Out of Placeに案内してみた。その人は奈良の人だけど
「こんなところ歩いたことないです」
って言ってた。ギャラリーの隣のコーヒー屋さんにも寄って帰っていった。僕はその人にとっての新 しい場所の開拓を手伝えたのだ。嬉しかった。

夜、津嘉山さんと一緒におでん屋さんに行って色々話した。津嘉山さんは幼少時の経験をヒントに過去に荒川修作の研究をしていて、インタビューもしたことがあるらしい。僕の「歩くってのは土地と ダンスをすることだ」っていう話とか「轢かれた蛇の死体を見つけたら報告するようにしてる」っていう話を聞いて、荒川さんのことを思い出したらしく、いろいろと話が盛り上がった。そこで僕はとても大切なリンクを得た。 僕が大学生の時に散歩サークルの「東京もぐら」をやって考えていたことから現在考えていることまで、知らず知らずのうちに身体の問題とつながっていて、それは荒川さんがやっていたこととほとんど直結してるみたいだ。いろいろなことが、身体の問題にすこしずつ繋がっていく。この社会装置が、当人の無意識のうちに、人の身体にその社会での「振るまいかた」を学習させてしまう、ということに対しての抵抗を荒川さんはやろうとしていたってことが分かってきた。

僕は、たとえ半年前のことでも、日記を読んだり自分の家を置いた場所の写真をみたり、そのとき描いた絵を見たりすると、その日の天候とか空気の感じをからだで思い出せる。前にも書いたけど、電車とか車で平行移動した時におこる「断絶」は、土地と土地を切り離してしまう。それは「ある土地の時間」と「別の土地の時間」を切り離すことにもなる。
僕はほぼ歩いて移動しているので土地と土地の断絶がおこりにくい。今いる奈良県と青森県を完全に同じ地平上でイメージできる。なんで「奈良」と「青森」って呼び方を変えるんだろうとさえ思う。

それは「日本全体が自分のからだになっていく感覚」って呼んでもいい。だから「移動している感覚」もないし、天候とか空気を思い出す事もできる。天候が思い出せるのは、そのときの状況が写真 や描いた絵でイメージできた時だ。「何月何日だった」とか「なんていう名前の町にいたか」とか、 そういうことじゃない。「あの雨の日で、靴が濡れていて海が右側に見えて…」ていうイメージか ら、そのときの「感じ」をからだが思い出す。
歩く事は土地とのダンスだ。それが荒川修作と繋がってくるなんて。ミックジャガーとシチュアシオニストとヘンリーデビットソローと坂口恭平と荒川周作が全部つながってくる。ブコウスキーも「日 雇い労働から文章のつくりかたを学んだ」みたいなことを言ってた。

いま、電車がとまったり車がとまったりすることを「事故」と呼び、それを排除するのが正義とされているけれど、それはある「事故」にであったときの身体の学習の可能性をつぶす事になる。それに
抵抗するために荒川修作は、床が傾いてでこぼこで、あちこちに変な突起があって色がやたらカラフルな家を設計したのだ。

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柿が洗濯物と一緒に干されてた

東京の友達から久々のメールがきた。
「元気?」
って送ったら
「それが元気じゃないんだよねー。1週間くらい会社休もうかと思って」
っていう返事がきた。
「はー人生めんどい」
っていう返事もきた。
「それは100%わかる」
って返した。

「100%分かる」 って言い切れる事はあるぞ。元気じゃないだよあとか、人生めんどいとかって言葉がこぼれちゃうのは分かるって言えるぞ。それはその人が元気じゃないから「元気じゃない」って言葉がでるわけじゃないと思う。元気じゃないっていう言葉はこの社会装置が人の口を通して言わせるんだ。「休みたい」ってのもそうだ。それは、その人のやる気とかの問題じゃないことはたくさんあ るんだ。この装置が、人の口から「休みたい」っていうセリフを言わせるんだ。
騙されちゃいけない。それは自分の意志じゃないんだ。そのセリフは自分の意志から出るものじゃない。それに騙されて死んだりしてはいけない。

今日はいきなり暖かい。日差しにあたってる時なんかは春なのかと思うくらい。
ギャラリーの人に教えてもらった「アカトキ」というお店に行ってみた。古民家を最小限に改装した カフェ。店主の森田さんがとてもいい。ふわふわとした第一印象だけど、話し込んでいくと強い意志 をもってることがわかって、毒もある。コーヒーもおいしい。

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家はギャラリーから15分くらい歩いたところにある津嘉山さんていうスタッフの家の駐車場に移動 させた。今夜はここが敷地になる。静かな住宅街で、コンビニも近くにある。スーパーがちょっと遠い。

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